第175話 まったく戻ってくる様子がないぞ

『ぐっ……何だ、今のは……?』


 女神像の背後に浮遊する六本の翅。

 そのうちの一つから放たれた雷撃を浴び、顔を歪めるリル。


「あの翅は魔法を放てるんだ。しかも六本それぞれ別の種類の魔法を発動してくるよ」

『人形のくせに、そんなことができるというのか……っ!』


 前世の俺が作ったものだからね。


 あの翅は赤、青、緑、黄、紫、黒の六色あって、炎の槍、氷の矢、竜巻、雷撃、毒の雨、重力場と、色ごとに違う魔法を打ち出せるのだ。


「あれだけの速さで剣を振るいながら、六種類の魔法まで使えるなんてっ!?」

「……どうやって倒す?」


 俺の当時の弟子たちでも、この女神像には大苦戦していたっけ。

 一応、何度か戦っていると、段々その攻略法が分かってくるように作ったのだが。


『最低でもこれを越えなければ、大賢者の塔の一員になることはできないんだけどな』

『ゆえに当時、ここは世界最高峰の魔法の研究所となっていたわけですね。しかし、マスター。一部の天才たちはともかく、大半は大人数で挑み、突破していたようですが』

『え? そうなの?』

『研究のためには助手も必要ですし、当然、魔法使いたちの生活をサポートするスタッフも不可欠ですからね。飛行船の定期便も出て、頻繁に都市と行き来もしていたようです。マスターのように、数十年分の食料を亜空間内に保管しておくことなどできませんから』


 細かいことは弟子たちに任せてたからなぁ……。


「まぁ、今日のところは僕も参戦しよっか」


 リルは相性が悪い相手だし、今のファナとアンジェではまだ敵わないだろうから、俺も一緒に戦うことにした。


「まずはあの翅を壊すのがセオリーなんだ」


 俺は複数の魔法を同時に発動し、女神像の翅を攻撃していく。

 水を赤い翅に、炎を青い翅に、そして隕石を緑の翅に、という感じで、逆の属性の魔法を使うのが、早く破壊するコツだ。


 しかしそう簡単には直撃しない。

 というのも、あの翅はそれぞれが自由に動き回り、回避行動を取るからだ。


「もっとも、こっちは追尾機能を付けてるから、逃げても無駄なんだけど」


 翅に避けられても、俺の魔法はすぐにその後を追いかける。

 そうして次々と着弾し、翅がどんどん削れていく。


 このまま大人しくやられてなるものかと、女神像が俺に狙いを定めて襲い掛かってきたが、そこへ横からリルが飛びかかった。


『させはせぬ!』


 リルの突進を受けて、女神像が吹き飛ばされる。

 その間にも魔法を受け続け、翅はもうボロボロだ。


「戦う」

「そ、そうね! あたしたちも見てるだけじゃないのよ!」


 ひっくり返った女神像に、すかさず攻撃を見舞うファナとアンジェ。


 そうして六枚の翅が完全に破壊されるとほぼ同時、女神像本体の方もダメージが許容量を超えたようで、動かなくなったのだった。


『放っておいたらまた復活するけどな。しかし、あれからまだ機能停止せずに動き続けているとは……さすがは俺の傑作の一つだ』

『自画自賛ですか……。長らく訪れる者がいなかったことも一因かと』


 そうして最初の難敵を退けた俺たちは、塔の上層を目指すのだった。



  ◇ ◇ ◇



「……あのパーティ、まったく戻ってくる様子がないぞ?」


 先ほど僕たちが命からがら逃げ帰ってきた、大賢者の塔。

 だがその直後に入っていった連中が、いつまで経っても帰ってくる気配がない。


「もしかして、あの女神像とまだ戦っている……? まさか、倒したなんてこと……いやいや、そんなはずはないっ。僕たちですら、手も足も出なかった相手なんだ。しかしそうなると……やられてしまったのか……まったく、僕たちの忠告を聞かないからだ」


 せっかく僕たちが身をもって危険を知り、教えてあげたというのに。


「せめて死体だけでも回収してあげよう。申し訳ないが、お願いしていいか?」

「……了解」


 隠密行動を得意とする仲間が、再び塔内に入っていく。

 しかしすぐに慌てた様子で戻ってきた。


「どうした? まさか、死体が残っていなかったのか?」


 僕の問いに首を振ってから、恐る恐る答えたのだった。


「……女神像が、破壊されていた」

「は?」


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