第174話 先を越されちゃうけど

「急げっ! 塔への一番乗りだけは絶対に死守するぞっ!」

「「「うおおおおおおおおおおおっ!」」」


 冒険者たちが我先にと入り口に向かって駆けていく。


「すごく必死。追い抜く?」

「先を越されちゃうけど、いいの?」


 ファナとアンジェが聞いてくるが、俺は首を振った。


「……それで満足してくれるなら、好きにしていいよ、うん」


 一番乗りとかどうでもいいしな。

 そもそもここに塔を作ったのは前世の俺なのだ。


「やったぞ、俺たちこそが一番乗りだ! だがこの巨大な扉、一体どうやって開ければ……」

「おい、こっちの小さい方の扉、普通に開くぞ! 中に入れる!」

「でかした! 彼女たちが来る前に塔内へ!」


 入り口に着いた彼らは、通用口の扉を開けて中に入っていった。


「彼らにお宝を取られちゃうかもしれないわよ?」

「その心配はないよ」

「何で分かるのよ?」

「勘?」


 どのみち彼らの実力では、この塔の上層に辿り着くことは不可能だろう。

 それどころか、最初の関門すら抜けられないと思う。


 実はこの塔の下層、侵入者を排除するためのダンジョンになっているのだ。

 特に入ってすぐのところには最初のボスモンスターが配置されていて、そう簡単には突破できない。


 彼ら全員が塔内に消えてから、僅か数十秒後のことだった。


「「「ぎゃああああああああああああっ!?」」」


 悲鳴と共に入り口から飛び出してくる。


「ななな、何なんだ、あの怪物は!?」

「恐らく侵入者を排除するための門番だ……っ! だが未だに機能しているとは……っ!」

「あんなのが入ってすぐのところにいたら、先に進めないじゃないの!?」


 どうやらもう引き返してきたらしい。

 思った通り、彼らには荷の重い相手だったようだ。


『この大賢者の塔に辿り着いた者を排除するためのものだからな。辿り着くだけで精一杯だった連中が、容易に突破できるはずもない』

『ちなみに転生して別の身体になった今、マスターご自身も、このダンジョンを攻略しなければ上層に辿り着けませんが?』

『おいおい、俺を誰だと思っているんだ、リンリン? 赤子の身体で前世より弱体化しているとはいえ、この程度のダンジョンを踏破するなど朝飯前だ』


 入り口前でぐったりしている冒険者たちを余所に、俺たちは塔内へ。


「お、おい! 悪いことは言わないから、お前たちもやめておいた方がいいぞ!? いや、もちろん、君たちに先んじたいから言ってるわけじゃない! そこにいるのは今まで僕が遭遇した、あらゆる魔物よりも恐ろしい存在だっ! 手を出さない方がいいっ!」


 背後から先ほどの冒険者が注目してくれたが、当然のごとく無視する。


「師匠、ああ言ってる」

「だ、大丈夫かしら?」

「ふん、あのような輩、放っておけばよいのだ」


 脇の門から中に入ると、そこは数階層分が吹き抜けになった広大な空間になっていた。


 その中央に屹立していたのは、高さ十メートルを超える巨大な女神像だ。

 鎧や兜を身に着け、剣を装備しているので、戦女神と言ってもよいだろう。


 俺たちが入ってきたのを感知して、その目が怪しく光り、ゆっくりと動き出す。


「う、動いたわ!?」

「ゴーレム?」


 直後、女神像が猛烈な速度で迫ってきた。

 豪快に剣を振り下ろしてくる。


 ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!


「~~~~~~~~~~っ!? な、何なのよ、こいつは!?」

「……やばい」

「っ……ほう、やるではないか」


 辛うじて攻撃を回避したファナとアンジェが驚愕する一方、リルは感心したように鼻を鳴らして聞いてくる。


「我が主よ、この身体ではさすがに荷が重い相手だ。元の姿で戦わせてもらうぞ」

「いいよ~」


 リルの身体が巨大化していき、フェンリルとしての本来の姿を取り戻す。

 美しい白銀の毛並みを翻しながら、反撃とばかりに女神像へ突進、その鋭い牙で身体に嚙みつくと、豪快に振り回してから放り投げた。


「あれがフェンリル……なんて強さなのよ……?」

「びっくり」


 しかし壁に激突した女神像は、すぐに起き上がると、その背に六本の翅を出現させる。


「気を付けて、本気を出してきたよ」


 俺が注意を促した次の瞬間、翅の一つから強烈な雷撃が放たれ、リルに直撃した。


「~~~~~~~~~~っ!?」

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