第173話 きっと歴史に残るぞ
僕の名はアルス。
Aランクの冒険者だ。
仲間の冒険者たちと力を合わせ、僕はとある幻の地を目指していた。
そこはかつて、伝説の大賢者アリストテレウスが築いたという塔。
晩年、彼が魔導研究に没頭したとされるその塔には、現代でも到底及ばないほどの研究記録や魔導具が眠っていると言われている。
だが、未だ誰一人として、その塔に辿り着くことができたものはいないとされていた。
……僕たちを除いて。
「これが……大賢者の塔……なんて高さなんだ……千年以上も昔に、こんな建造物が作られたなんて……」
「やっぱり伝説は本当だったのね……っ!」
「ああ、間違いない! ははっ、これは世紀の大発見だ! 俺たちの名前は、きっと歴史に残るぞ!」
仲間たちが感動と感嘆の声を漏らす。
そう。
ついに僕たちは、前人未到の大賢者の塔へと至ったのである。
ここまで来るのに凄まじい苦労があった。
なにせ最初にこの挑戦を決意してから、もう十年が経っているのだ。
幾度となくサンドワームに喰われかけ、猛烈な暑さに幻覚まで見たあの日。
超好戦的な猿の大群に襲われ、懸命に逃げ惑ったあの日。
湖に棲息する恐怖のピラニアを前に、もはや打つ手なしと諦めかけたあの日。
今までに十回以上も挑み、その度に途中で断念し、引き返し続けてきた。
だけど、僕たちは諦めなかった。
失敗する度に対処法を編み出し、数々の試練を乗り越えてきたのだ。
「入り口は反対側のようだな」
「行ってみましょう!」
「せっかくここまで来たんだ! 中に入ってみないとな!」
待ち切れないとばかりに、僕たちは塔の根元へと走った。
そして――
「ん、誰か来た」
「ちょっ、こんなところに人……っ?」
先客がいたああああああああああああああああっ!?
しかも若い女性の三人組だ。
そのうち二人はまだ十代にしか見えない。
「もしかして普通に砂漠や湖を抜けてきたのかな? なかなかやるねー」
それに赤子までいる!?
って、今、喋らなかったか……?
「ど、どうなっているんだ!? ここは前人未到の地のはずだろう!? なぜ先客がいるんだ!?」
僕は思わず頭を抱えて叫んでいた。
すると先ほどの赤子が、
「前人未踏? 大賢者が塔を作ったんだから、前人未到じゃないでしょ」
もはや赤子が喋っていることなど忘れて、僕は声を張り上げる。
「大賢者は例外だろう! それ以降、この地に辿り着いたという記録は一切残っていない! 僕たちがっ……僕たちが初めてだったはずなのに……っ! ここに来るまでどれだけの日数と費用と労力をかけたと思っているんだ……っ!? なのに、どうしてっ……どうして先客がっ……あああああああああああっ!」
「ええと……なんかごめんね」
◇ ◇ ◇
塔の入り口の近くまでやってきたときだった。
『マスター、何者かがこちらに近づいてきています』
リントヴルムに注意を促されてしばらくすると、冒険者らしき集団がやってきた。
「ど、どうなっているんだ!? ここは前人未到の地のはずだろう!? なぜ先客がいるんだ!?」
その中の一人が僕たちを見て叫んでいる。
「前人未踏? 大賢者が塔を作ったんだから、前人未到じゃないでしょ」
確かにここは簡単には辿り着けない場所にあるが、それでも当時は弟子が何人もやってきていたし、決して前人未到なんていう大層なものじゃない。
「大賢者は例外だろう! それ以降、この地に辿り着いたという記録は一切残っていない! 僕たちがっ……僕たちが初めてだったはずなのに……っ! ここに来るまでどれだけの日数と費用と労力をかけたと思っているんだ……っ!? なのに、どうしてっ……どうして先客がっ……あああああああああああっ!」
だけど彼は最愛の家族を亡くしたかのように慟哭し始めてしまう。
「ええと……なんかごめんね」
赤子に同情されるとか、どうよ?
呆れていると、彼は震える声で聞いてきた。
「も、もう、塔の中には入ったのか……?」
「え? まだだけど?」
「っ、そうかっ……それならっ……」
突然、その冒険者が塔の入り口に向かって全速力で走り出した。
「先に塔内に入った僕たちがっ、本当の一番乗りだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! みんなっ、走れぇぇぇぇっ!」
「「「おおおおおおっ!!」」」
それに応じるように仲間たちが一斉に駆け出す。
「……それで満足してくれるなら、好きにしていいよ、うん」
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