第170話 みんな乗って乗って

「冗談はさておき」


 ファナたちと無事に(?)合流した俺は、とある提案をした。


「色々あって、ちょっと行ってみたい場所ができたんだ」

「行ってみたい場所? 何よ、それは?」

「ええと、あの盗賊団が使ってた飛行船の中で、とあるお宝の地図っぽいものを見つけたんだ。そこに行ってみようかなって」


 実際にはそんな理由ではないのだが、本当のことを言うわけにはいかないので伏せておく。


『マスター、もしかして〝大賢者の塔〟に行かれるおつもりですか?』


 リントヴルムの指摘に、俺は念話越しに頷く。


『ああ、そうだ。あの黒い魔石のことも気になるし、何より今あそこがどうなっているのか、見ておきたいと思って』


 俺が死んだ当時から、すでに千五百年以上は経っている。

 メルテラを聖母と崇めるエルフの里で話を聞いてみても、彼らは『大賢者の塔』の存在すら知らない様子だった。


 恐らくもう遥か昔に組織ごとなくなっているだろう。

 元々は前世の俺の個人ラボであり、そこに弟子入り志願者たちが集まってできた組織なのだから、俺が死んだら自然消滅するのは当然と言える。


『けど、あの塔は俺が相当頑丈に作ったからな。建物自体は今でも残ってるはずだ』


 先年やそこらで崩壊するとは思えない。

 建物が存在していれば、中に何か残っている可能性もあった。


『そういえば、リンリンはどこで休眠していたんだ?』

『残念ながら、マスターの復活を感知し、覚醒すると同時に移動を開始したため、どこにいたのかまでは認識しておりません。ただ、大賢者の塔とは異なる場所だったかと』


 俺が死んだとき、リントヴルムは大賢者の塔に保管しておいたはずだ。

 となると、何者かが持ち出した可能性がある。


「あんた、お宝とかに興味あるタイプだったっけ?」

「あ、あるよ? ぼく、金銀財宝、だーいすきっ」

「それはそれで嫌な赤子ね……」


 アンジェに疑いの目を向けられつつも、ファナとリルはすんなり同調してくれ、俺たちは宝の在り処、もとい、大賢者の塔へと出発する。

 もちろん移動手段は飛行船だ。


 街の外に出てから、亜空間の中に仕舞っておいたそれを取り出す。


「さあ、みんな乗って乗って」

「ん」

「……まるで自分のもののように言うわね」


 元々は俺の船だし、そうでなかったとしても、盗賊団から奪った今、俺の所有物である。


「ま、また穴が開いたりしないだろうか……?」

「大丈夫、すでにシステムに登録しておいたから、トラップは発動しないよ」


 船内を恐る恐る歩くリルに、俺は言う。

 一度空から落とされたことがトラウマになっているようだ。


 そうして操舵室へと連れていく。


「ここで操縦ができるんだ」


 ファナに抱きかかえてもらいながら、俺は操作パネルにあるボタンをポチポチと押した。

 すると飛行船が起動し、空へと浮かび上がった。


「ん、外」

「街が見下ろせるわ!」


 この操舵室は壁の一部がガラス張りになっている。

 そのため空から地上を見渡すことができるのだ。


「ちなみに今は向こうからこの飛行船を見ることはできないよ。ステルスモードにしてあるからね」

「師匠、すごい。もう使いこなしてる」

「さすが我が主」


 ファナとリルが賞賛してくれる。

 もちろん自分で作った船なので、最初から使い方を熟知していただけだ。


「それじゃあ、目的地を設定して、いざ、出発! 全速前進! ヨーソローっ!」


 船が勢いよく加速する。


「……よし、これで後は放っておいたら勝手に着くよ」

「えっ!? そのままにしておいていいの!?」

「うん。風向きとかに応じて、船が方向を微調整してくれるからね。近づいてきたら通知音も鳴らしてくれるよ。魔物も自動で撃退してくれるし」

「すごく便利」

「ただし旧式だから、並みのドラゴンならともかく、古竜とかは倒せないけど」

「いや、十分過ぎるでしょ……それに何であんた、そこまでこの船のこと知ってるのよ……」

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