第169話 きっと酔ってたんだ

 無事に隊商を目的地に送り届け、依頼をまっとうしたファナたちは、ベガルティアへと戻ってきた。


「レウス様でしたら、すでにお戻りですよ」


 受付嬢に聞いてみると、どうやらレウスもこの街に帰ってきているようだ。


「今どこにいる?」

「まだギルドにいらっしゃるはずです」


 一行はレウスを捜すことに。

 しかし冒険者ギルドはかなり広く、手当たり次第では面倒だ。


「我に任せてくれ。主のにおいを辿れば簡単だ」


 リルがクンクンと鼻を動かしながら言う。

 今は人化によって美女の姿をしているが、フェンリルである彼女は人間の何倍もの嗅覚をもっているのである。


「こっちだ」


 リルが先導し、一行がやってきたのは酒場だった。

 冒険者ギルドの建物内で運営されている酒場で、まだ早い時間だというのに冒険者たちで賑わっている。


「主は恐らくこの中にいる」

「酒場? 何で赤子が酒場になんかいるのよ? ……まぁ、赤子が冒険者ギルドにいる時点でおかしいんだけど」


 だが酒場内を見渡してみても、それらしい姿が見当たらない。


「本当にここにいるのよね?」

「そのはずだ。そのはずだが……ひっく」

「……?」


 どういうわけか、リルの顔が赤くなっていた。

 目もとろんとしていて、どうやら酒場内に充満しているお酒の匂いだけで酔ってしまったらしい。


「フェンリルって、お酒に弱いのね……」


 当てにならなくなったリルを余所に、酒場内を隈なく捜索するファナとアンジェ。

 飲んでいる冒険者たちに話を聞いてみると、どうやらこの酒場には個室というものがあるらしい。


「赤子の冒険者? ああ、それならあの部屋に入ってった気がするなぁ。それより、姉ちゃんたち、一緒に飲まねぇかぁ? 今ならおっちゃんが奢ってやるぜぇ」

「教えてくれてありがと。でもお酒は遠慮するわ」

「なんでぇ、つれねぇなぁ、ひっく」


 酔っ払いを適当にあしらって、三人はその個室の前までやってくる。

 そうしてドアを開けた彼女たちが見たものは、





「ひゃっほ~~~~っ! ここはおっぱい天国だあああああああっ!」





 三人の美女たちの胸に包囲され、恍惚とした顔で叫ぶ赤子の姿だった。


「まったく、レウスは本当に胸が好きなんだな。まぁ英雄色を好むというし、君ほどの男児ならこの年齢で女の身体を」

「うふふ、わたくしたちの命を救ってくれたお礼ですの。たっぷり堪能してくれていいんですのよ?」

「これくらい安いもの」


 少し酔っているのか、火照った顔でレウスをトライアングルサンドしているその美女たちは、ファナやアンジェより幾らか年上だろう。

 この酒場で飲んでいるということは冒険者だと思われるが、面識はなかった。


「……師匠、何してる?」

「ちょっとあんた、こんなとこで何やってんのよ!?」

「あ」


 声をかけると、こちらに気づいたレウスが頬を引き攣らせる。


「ええと……ご褒美? って、ちょっ?」


 レウスの首根っこを掴んだアンジェが、その身体を持ち上げた。

 Aランク冒険者の殺気立った剣幕に、美女三人は硬直するしかない。


「ここは赤子の来るところじゃないのよ? 帰るわ」




   ◇ ◇ ◇




 せっかく美女三人と戯れていたのに、アンジェたちに見つかってしまった。

 強引に引き離されて、俺は思わず嘆きの声を漏らす。


「ああ、さらば愛しのトライアングルおっぱい……」


 オークの群れに囲まれているところを助けた、三人の美女冒険者たち。

 ぜひ何かお礼をしたいと言われ、どうしようかなと考えていたところ、三人とも素晴らしい胸をしていることに気づいたのだ。


『だからといって、何が〝トライアングルおっぱい〟ですか?』

『きっと酔ってたんだ』

『マスターは一滴も飲んでないでしょう?』


 と、そこで俺はあることに気づく。

 ファナ、アンジェ、そしてリルもまた、先ほどの三人に勝るとも劣らない胸の持ち主たちであることに。


「もしかして、トライアングルおっぱい、リターンズ……?」

「あたしたちはやらないわよ!?」

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