第171話 絶対徒歩じゃ進みたくないわね

「目的地までは二、三日かかると思うから、この船の好きな部屋を使ってもらっていいよ」


 俺が作ったこの魔導飛行船セニグランディ号は、三階建てだ。

 主にその二階と三階が客室になっていて、俺はファナたちをそこに案内していた。


「寝泊りできる?」

「うん、ベッドもトイレもシャワー室も各部屋に備え付けられてるんだ」

「すごい。至れり尽くせり」


 盗賊たちが酷い使い方をしていたため、修理や掃除が大変だったけどな。


「一応、一人用の部屋と二人用の部屋があるんだけど、人数が少ないからどこでも構わないよ。あと、シャワー室があるって言ったけど、三階に大浴場があるから、使うならぜひそっちを利用してみてね」


 残念ながらさすがにこの大きさの船に大浴場を二つも設置する余裕はなく、男女混浴だ。

 まぁ俺は赤ちゃんだから、どのみち男湯と女湯、どっちを使ってもまったく問題ないのだが。


『問題しかありません』


 さらに船内には休憩や社交などに利用できる広いラウンジ、レストランやバーなどもある。

 もちろん今は利用できないが、レストランの厨房で食事を作ることくらいは可能だ。


 三階からは、大空を独占できるような展望デッキに出ることができる。


「ん、絶景」

「昼間もいいけど、夜も星がよく見えてすごく奇麗だよ」

「……あんたやっぱりちょっと詳し過ぎない?」






 大賢者の塔は、誰もが簡単に訪れることができる場所ではなかった。

 辿り着くためには、最低でも二つの大きな関門を残り超える必要があったからだ。


 一つ目は広大な砂漠である。

 大賢者の塔は危険な砂漠のど真ん中に存在しており、それゆえまずはこの砂漠を横断しなければならない。


 日中は四十度を超え、夜になると今度は氷点下を下回り、時に猛烈な砂嵐が巻き起こる。

 右を見ても左を見てもただひたすら砂地が続くため、方向感覚を失って彷徨い続け、そのまま力尽きる者も珍しくない。


 過酷なのはそうした環境だけではない。

 この砂漠で独自進化を遂げた凶悪な魔物が、数多く棲息しているのだ。


 安易に立ち入った人間の大半が生きて帰ってこないことから、当時は『死神砂漠』と呼ばれ、恐れられていた。


 もっとも、俺が作ったこの魔導飛行船にかかれば、この砂漠を越えることなどお茶の子さいさいである。


「ほんと、延々と砂漠が続いているわね……」

「ん。あそこ、魔物」

「ハイエナの魔物ね……って、砂の中から何か飛び出してきたわ!? しかもでかい!?」


 巨大な芋虫のような魔物がハイエナの足元から現れ、鋭い牙が並ぶ巨大な円形の口で、ハイエナを丸呑みにしてしまった。

 そしてすぐに砂の中へと潜っていく。


「あれはサンドワームだね。砂の中をかなりの速度で泳ぐことができて、目が見えない代わりに、音を敏感に感知する能力に長けているんだ。一キロ離れた獲物の歩く音にも反応すると言われてる」


 サンドワームに食い殺された旅人は少なくない。

 もちろん先ほどのハイエナのように、砂漠の魔物もよく餌食になっていた。


 まぁあのハイエナ、エビルハイエナというのだけれど、決してただの非捕食者などではない。

 敏感さと俊敏さを兼ね備え、時にはサンドワームの攻撃を躱し、逆に身体に噛みついて食い殺す狂暴な魔物だったりするのだ。


「砂の中に身を潜めてるのはサンドワームだけじゃないよ。水を溜めた袋を頭の先にぶら下げていて、近づいてきた得物を喰らうサンドアンコウとか、嵌まり込んだら抜け出せないすり鉢状の窪みを作って、獲物を捕まえるセザートアントヘルとか、色々いるから」

「……こんなところ、絶対徒歩じゃ進みたくないわね」


 そうして砂漠を飛び続けると、やがて前方に広大な緑地が見えてきた。

 その中心には湖らしきものがある。


 一見すると砂漠のオアシスだが、残念ながらそんな生易しいものではない。

 あれこそが大賢者の塔に辿り着くために越えなければならない、第二の関門だった。


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