第155話 同じミスは繰り返さない

 ガタガタガタ……。


「お、おい! その荷物、動いてねぇか!?」

「本当だ!? こいつ、中に何が入ってるんだ!?」


 盗賊たちの慌てふためく声が聞こえてくる。

 そして次の瞬間、荷物の箱をぶち破って、彼らの元へと現れたのは、




「じゃ~~~~ん! 可愛い赤子、参上~~っ!」




 そう、俺である。

 実はあらかじめ荷物の中に身を潜めておいたのだ。


「「「……は?」」」


 地面に着地を決めた俺に、盗賊たちは時間が止まったかのように硬直した。


「あまりに可愛い赤子に見惚れちゃってるみたいだね」

『どう考えても違います。ただシンプルに目の前の荒唐無稽な状況を理解できず、呆然としているだけです』


 リントヴルムが突っ込んでくる。


「な、な、な、何だこのガキは!? 何で荷物の中に!?」

「ていうか、今、喋らなかったか!?」

「しかも宙返りしたぞ!?」


 愕然と叫ぶ盗賊たちを余所に、俺は鎖で雁字搦めになったリルを見遣る。

 すると彼女は悔しそうに顔を歪めて、


「くっ、我が主に、このような情けない姿を見られるとは……」

「ああ、気にしなくていいよ。その鎖、というか、捕縛用の魔導具、そう簡単に抜けられなくて当然だから。上級魔族でも捕獲できるように作られたものだしね。まぁ、リルが本来の姿なら、強引に千切れるかもだけど」

「???」


 なぜそんなに詳しいのかと、首を傾げているリルを余所に、俺は周囲を見回す。


「まさか、こんな形でこいつと再会するなんてなぁ。まだちゃんと使えるのも驚きだけど」

「た、たかが赤子だ! まずこいつからヤっちまえ!」

「ん? ああ、感慨に耽ってる場合じゃなかった。とりあえず大掃除しないとね」


 躍りかかってこようとする盗賊たち。

 しかし彼らはその場から一歩たりとも動くことはできなかった。


「っ……な、何だ、身体が……動か、ない……」

「お、俺もだ……まるで、全身が、石に、なったかのような……」

「い、一体、何が……」

「うるさいからここで寝ててね」


 さらに彼らは糸が切れた人形のように、バタバタとその場に倒れていく。


「我が主、殺したのか?」

「死んでないよ。眠ってもらっただけ。それよりその鎖、取ってあげるね」

「かたじけない……主の手を煩わせるとは……」

「気にしなくていいよ。実はこれ、簡単に外せるんだ。特定の周波数の魔力をぶつけるだけで……ほら、この通り」


 ガチガチにリルを拘束していた鎖が、あっさりと取り除かれた。


「っ……本当だ。さすが我が主。一見しただけでその特性を見抜くとは」


 自由になったリルが、感心するように唸る。


「あ、違うよ。見抜いたんじゃなくて、知ってただけだよ。だってこの魔導具、僕が作ったやつだから」

「なに?」

「いや、この魔導具だけじゃない。この自体が、僕が作ったものなんだ」


 と、そこへ複数の気配が近づいてきた。

 どうやら異変に気づいて、他の盗賊たちがやってきたらしい。


「おい、侵入者だ! あいつら、やられちまってるぞ!」

「ちっ、ここまで入ってきやがるとは……っ!」

「俺たちの拠点を知られたとあっては、生きて帰すわけにはいかねぇな!」


 怒号と共に迫ってくる。


「……侵入者? まったく、勝手に侵入してるのはそっちの方でしょ?」

「我が主、ここは我にお任せを!」


 先ほどの失態を挽回したいのか、リルが猛スピードで突っ込んでいく。


「気を付けてね~、他にも厄介な魔導具を持ってるかもしれないから。って、もうやっつけちゃったか」


 注意を促したときには、すでに立っている盗賊はいなかった。

 戦闘能力で言うと、どうやら雑魚ばかりらしい。


「先ほどは少し油断しただけだ。同じミスは繰り返さない」

「あ、そこ、踏んだらトラップが発動するよ」

「へ? ~~~~~~っ!?」


 カッコいい台詞を口にするリルだったが、足に巻き付いてきた鎖に引っ張られ、そのまま天井から逆さ宙吊りになってしまった。


「この船、色んなところにトラップが設置されてるんだ」


--------------

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