第156話 あ、自爆する

 前世の俺が作った魔導飛行船。

 それがこれ、セニグランディ号である。


「古い型の船だったから、確かどこぞの金持ちに売却したんだよね」

『なるほど、それで詳しいのですか』

「たぶんあの捕縛用の魔導具は、船の保管庫にでも入れてあったんだと思う」


 この船の接近を魔法で探知したとき、すぐに気が付いた。

 なにせ自分で作ったものだからな。


 この船は高度なステルス機能を備えており、視界で捉えることができないのはもちろん、簡単な探知魔法など軽く無効にしてしまう。

 夜空から、何の前情報もなく近づいてこられては、気づくことなどまず不可能だ。


 しかも出入りは、任意で人や物を昇降させることができるエレベーター式。

 昇降台などは存在せず、地上に置いてある荷物を丸ごと吸い上げてしまえるため、気づいたときにはもう奪われてしまっているというわけだ。


 ただし一度に持ち上げられる重量に限界があるため、荷車と荷物を切り離すための人員を降ろす必要があったのだろう。


 神出鬼没の盗賊団の正体。

 それはこの船だったようだ。


『恐らく盗賊団が偶然どこかで見つけ、利用することにしたのでしょう』

「しかし、よくこんな骨董品がまだ動くよなぁ」

『トラップもまだ生きているようですし、ご注意ください。他ならぬマスターが設置したものですから、簡単には見抜けないかと』

「その心配は無用だよ。自分で作ったトラップに自分で引っかかるほど間抜けじゃない」


 逆さ吊りになったリルを助けた俺は、この船の中枢である操舵室を目指すことに。

 ちなみにこの船の広さは、ちょっとした三階建ての屋敷くらいある。


「ええと、確か、こっちの方だったかな?」


 記憶を頼りに進んでいく。

 探知魔法が妨害されるせいで、正確な間取りを把握しづらいのだ。


 ウ~ウ~ウ~ウ~ウ~ウ~。


「警報が鳴り出したね。侵入者を排除するシステムが発動しちゃう」


 そのとき廊下の向こうから、バケツをひっくり返したような形状の物体が宙を舞いながら近づいてきた。

 一つ目のような赤いランプが点滅し、口のような場所から、うぃ~ん、とノズルが伸びる。


 直後、ノズルの先端からレーザーが放たれた。

 右から左へ、薙ぎ払うようにそれが移動する。


「っ!?」


 慌ててしゃがみ込み、それを躱すリル。

 一方、俺は背が低いため、何もしなくても頭の上を通過していった。


「侵入者排除用のゴーレムだよ。ミスリルくらいなら軽く両断できるレーザーだから、リルでもまともに喰らったらかなり痛いと思う。まぁ、すぐ倒しちゃうけど」


 避けられたのを悟ったゴーレムが、ノズルの高さを一瞬で調整すると、今度は低い位置をレーザーで薙ぐ。


「反射」


 だがそれは俺の目の前にきた瞬間に跳ね返って、バケツのようなゴーレムを貫く。


 ジジジジジジジジ……。


「あ、自爆する」


 チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!


 轟音と共に、猛烈な勢いでゴーレムが爆裂四散した。


「危ない危ない。自爆機能を搭載してたの忘れてた」

『……先ほど自信満々に宣言されていたのは何だったのですか?』


 爆発自体は大したことなく、どちらかというと爆発したときの破片で敵を殺すタイプのものだったが、もし咄嗟に結界を張って抑え込んでいなかったら、髪の毛がチリチリになっていただろう。


「そんなことになったら大変だ。ただでさえ毛が柔らかくて、量も少ないんだから」

『心配するのはそこですか?』

「まぁ大人と違って、これから増えていく予定なのが救いか」


 その後も何度かゴーレムが排除しようとしてきたが、魔法で氷結させてやった。

 こうすれば自爆しないで済むのである。


「ふっふっふ、作り主を排除できるとでも思ったか」


 そうこうしているうちに、見覚えのある場所に出た。


「そうそう、あの扉だ。あそこが操舵室になってるはず」

「ここは我に任せてくれ!」


 リルが先陣を切って、操舵室に突入しようとする。


「あっ、ちょっと待って。そこ、トラップが……遅かったか」

「へ?」


 扉を開けた直後、足元に空いた穴に落下するリル。


「ああああああああああっ!?」


 その穴は船の底にまで繋がっていて、そのまま地上へと落ちていった。


「……うん、まぁ、リルなら死なないから大丈夫でしょ」


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