第153話 夜に注意ってことね
「こんな若い女ばかりのパーティで本当に大丈夫なんだろうな?」
そう疑問を口にするのは、今回、俺たちが護衛として同行することになった隊商のリーダーだ。
四十代半ばほどのおっさん商人である。
「冒険者ギルドからは、一番優秀なパーティを付けるって聞いてるんだが……」
「心配は要らないわ」
アンジェが自信満々に断言する。
「その評価で間違いないから、大船に乗ったつもりでいなさい」
「……まぁ、その言葉を信じるしかねぇか」
それから商人たちは、現在の窮状を教えてくれた。
彼らは冒険者ギルドから商品を買い取って、それから各地に売りにいくらしい。
なので、もし途中で盗賊に商品を奪われたら、大損害だ。
「いや、ほんと商売あがったりでよ。このままじゃ廃業しちまう」
盗賊団のせいで、最近は王都方面への商売を控えているらしい。
そして商人たちが買い取ってくれなければ、当然ながらギルドも打撃を受けることになる。
「本来なら、この街道に盗賊なんてほとんど出ないんだ。なにせ、冒険者の聖地と言われるベガルティアと王都を結ぶ街道だからな。ここで悪さをするということは、冒険者ギルドや王都に喧嘩を売るようなもんだ。盗賊なんてすぐに取っ捕まっちまうはずだった」
だが最近この街道に現れる盗賊団は、一向に捕まる気配がないという。
「実は俺も一度やつらにやられたんだが、本当に一瞬のことだった。こっちにはBランクの冒険者が五人もいたんだが、気づいたときには積み荷がなくなっていたらしい。夜中のことで寝ていた俺も騒ぎですぐに目を覚ましたんだが、そのときにはもう、犯人たちの姿はなかった」
受付嬢の言っていたことと、おっさんの証言が一致している。
「とにかく夜に注意ってことね」
「ん。起きてるの大変」
「……あんたは苦手だからね。今のうちに寝てた方がいいと思うわ」
「そうする」
そうして隊商が出発した。
俺たちは常に商品を見張っていれるようにと、馬が引く荷車の隅に陣取っている。
なかなか狭いスペースだが、ファナは気にせず横になって、すぐに寝息を立て始めた。
「暇だし僕も寝てよっと。何かあったら起こしてね」
俺はファナの胸元へと潜り込む。
「任せるのだ。我は人間より遥かに耳や鼻が利く。怪しい者が近づいてくれば、たとえ寝ていようがすぐに分かるはずだ」
胸を張って請け負うリル。
なかなか頼もしい。
昼間は何事もなく順調に進み、やがて日が暮れてきた。
商人の一団は何もない街道沿いで停止する。
「今日のところはここまでだ」
どうやら今夜はここで野宿をするらしい。
商人たちが手際よくテントを張っていく。
すべての荷物を荷車ごと中央に集め、その周囲を囲むようにテントが配置された。
テントとテントの間には、人が通れないようにロープが張られ、触れたら音が鳴るような仕掛けも設置される。
「やつらが来ても音が鳴った試しがないんだが……まぁ、気休め程度だな」
護衛の俺たちは、荷物のすぐ近くに。
「悪いが、お前さんたちには一晩中、見張っておいてもらいたい。……さすがに初日の夜から現れる可能性は低いと思うが」
とのことで、商人たちが寝静まった後も、俺たちは荷物の監視を続けた。
「そもそも、あんたが結界を張っておいたらいいんじゃないの?」
「そうだね。でも、せっかくだから、どんなふうに持ってっちゃうのか、見てみたいでしょ」
アンジェが言う通り、俺が荷物を丸ごと護る結界を展開しておけば、まず手を出すことは不可能だろう。
ただ、それでは面白くない。
『マスターは、盗賊がどうやって荷物を奪っているとお考えですか?』
『そうだな、幾つか思い当たる方法があるが……いずれにしても、この時代の魔法じゃ、証言通りの手際で荷物を盗むなんて不可能だと思う』
『と、言いますと』
『まぁ、近いうちに分かるはずだ。……あくまで俺の直感だが』
俺の直感は当たるのだ。
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