第152話 悪いことしちゃったね

 実技試験が終わって、リルがダンジョンから戻ってきた。


「合格したようだ」

「うん、それじゃあ、ギルド証を受け取りにいこっか」


 訊けば、ダンジョンの三階層にいる階層ボスを討伐するというのが、実技試験の内容だったらしい。

 なお、エルダーコボルトというコボルトの上位種だったようだ。


「情けないことに我を見るなり逃げようとしたが、追いかけて仕留めたのだ」

「か、階層ボスが逃げようとした……?」

「初めて聞く」


 驚くアンジェとファナ。

 するとリントヴルムが、


『コボルトは犬系の魔物ですし、人化していても本能で危険な相手だと悟ったのでしょう。正直、まともな実技試験にならなかったのでは?』


 その指摘通り、合格したのはリルだけで、他の受験者たちは再試験になったという。


「ありゃりゃ、それは悪いことしちゃったね」

『マスターも合格者一人でしたが』

「あれは不可抗力だから仕方ないでしょ」


 そうして窓口に行くと、受付嬢が「え? これ、本当ですか? 間違ってない?」と何度も他の職員に確認しながら、リルのギルド証を発行してくれた。


「いきなりBランクだね」

「……そりゃ、何度も確認したくなるわ」

「ん、普通はEランクから」


 よっぽどの実績があればDやCランクからの場合もあるが、新人はEランクからのスタートが基本なのだ。


「我が主よ、これは凄いのか?」

「僕と同じだから凄いよ」


 俺もBランクからだったな。

 ボランテにいた受付嬢イリアがめちゃくちゃ驚いていたっけ。


 ……彼女もなかなか良い胸をしていたなぁ。

 また機会があればぜひ抱っこしてもらいたい。


「ええと……どうやら試験の結果だけではなく、みなさんのパーティの一員であることも評価されたようです」


 と、目の前にいる受付嬢が説明してくれる。

 ギルドには色々と貢献してきたし、配慮してくれたのかもしれない。


 パーティで一人だけ低ランクだと、受けられる依頼に制限がかかったりするため、ありがたいことだった。


「せっかくだし、何か依頼でも受理してこようかな」


 そうしてAランク冒険者専用の窓口へ。

 すると受付嬢が、とある依頼を提案してきた。


「ぜひ皆様のパーティに受けていただきたい依頼がありまして……こちらなのですが」

「ふむふむ、盗賊団の討伐ね。ここベガルティアから王都へと向かう主要な街道に、最近よく出没する盗賊団で、ギルドも全力を挙げて調査しているものの、未だに拠点すら判明していない、と」

「そうなのです。特に輸送中のダンジョン資源ばかりが狙われていまして」


 ダンジョンで採れる資源は貴重だ。

 それを各地に売ることで大きな利益を得て、発展してきたのがこの街である。


 それを横取りされては、冒険者ギルドとしては大損害だった。

 ギルドのプライドにかけて、そんな盗賊団を許しておけるはずもない。


「当然、輸送の際には、必ず実力のある冒険者たちを護衛に付けているのですが……夜中に突如として現れ、信じられない手際で物資を持ち去ってしまうのです」


 ほとんど戦闘すら起こらないという。

 気づいたときには、すでに貴重な資源を奪われてしまっているためだ。


「冒険者たちによると、まるでエスケイプリザードのように忽然と姿を消してまった、と」

「Aランクの昇格試験のときに捕まえた、あのカメレオンみたいな魔物のことね」


 アンジェが頷く。

 エスケイプリザードは、周囲の景色に溶け込む能力を持った魔物だ。


「うーん、何かそういう魔法でも使ってるのかな?」

「ん、盗賊にしては珍しい」


 ともあれ、成功報酬もよさそうだったので、俺たちはこの依頼を引き受けることにしたのだった。


 そして俺たちは商人たちの一団に、護衛として同行することに。

 彼らは冒険者ギルドから買い取った商品を、これから街道を通って王都に売りいくらしい。


「俺がこの隊商をまとめるリーダーだが……」


 中年の商人が、俺たちを見て、言った。


「こんな若い女ばかりのパーティで本当に大丈夫なんだろうな?」

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