第134話 服を着せてあげてください

 フェンリルが理性を取り戻したようだ。


『我が狂化状態になって、暴れ回っていたと……? ということは、この森の有様も、我のせいということか……』


 周囲を軽く見回してから、恥じ入るように身体を小さくするフェンリル。


『お主が我を正気に戻してくれたのか?』

『うん』

『なんとかたじけない』


 フェンリルが頭を下げてくる。

 もう暴れることはないはずなので、俺は鎖を解いてやった。


『何でそんな状態になっていたか、覚えてないの?』

『それがまるで記憶にないのだ』


 フェンリルほどの魔物が、何もなくあんな状態に陥るとは思えない。

 その原因は大いに気になるところだが、当人が覚えていないのなら探りようもなかった。


『そもそも我はこの森で眠っていたはずだったのだが……どうやって目を覚ましたのかも思い出せぬ』


 ちなみに強力な魔物であるほど、よく寝るのはあるあるだ。

 中には何百年もずっと起きないような魔物もいたりする。


 恐らく起きているとエネルギーの消耗が激しいのだろう。

 今回フェンリルが暴れたことで魔境の魔物が次々と森から逃げ出したように、周囲の環境を大きく変えてしまう存在なので、眠っていてくれた方が正直ありがたい。


『また寝るの?』

『うーむ、どうしたものか。また同じことになると困るし……』


 俺はかーちゃんに言った。


『かーちゃん面倒見てあげてよ』

『……何でそうなるんだい。嫌に決まってるだろう、こんな化け物。どう考えてもあたしの手に余るよ』


 全力で拒否されてしまう。

 狼たちのボスであるかーちゃんだが、さすがにフェンリルはごめんだという。


『あんたどうにかできないのかい?』

『そう言われても、こんな大きな魔物を連れていくわけにはいかないしなー』


 するとフェンリルが「わう!」と咆えた。


『それならいい方法があるのだ。見ているがいい』


 何をするのかと思っていると、フェンリルの身体が淡く輝き出した。

 かと思うと、段々とその巨体が小さくなっていく。


 輝きが収まり、やがてそこに現れたのは、二十歳くらいの長身美女だった。

 このフェンリル、雌だったのか。


「これでどうだ? 人化の魔法というらしいが、ちゃんと人間の娘の姿に見えるだろうか?」


 白銀の髪からは狼の耳が飛び出し、お尻からは尻尾が伸びている。

 だがそれ以外は、まさに人間の女性にしか見えない。


 しかも見事なスタイルだ。

 張りのある大きな双丘に、くびれた腰、上向きのお尻。


 そして一糸纏わぬ全裸である。


「この姿ならエネルギーの消耗も抑えられるのだ。そして何より、お主には助けてもらった恩があるからな。もしお主が認めてくれるのであれば、その恩に報いるため我の力を貸そうではないか」


 言われるまでもなく俺は即断した。


「よし、連れていこう」

『……エロマスター』


 とはいえ、さすがに全裸のままというわけにはいかない。

 確か、亜空間の中に女性モノの服があったはず。


 こういうこともあろうかと、ファナやアンジェの下着や服をこっそり保管しておいたのだ。


『マスター、それは完全に下着泥棒だと思いますが?』


 いやその前に生の胸を味わっておくか。

 俺はフェンリルの胸に飛びついた。


「む?」

「人間の世界では、こうやって赤ん坊を抱っこするものなんだ」

「なるほど」


 ふむふむ、やはりこれは良い乳だ。

 柔らかいのに弾力もあって、何より揉みしだいてみても平然としている。


 人化していてもフェンリルなので、その辺の感覚が人間とは違うのだろう。


『マスター、そろそろ服を着せてあげてください』


 しっかり生乳を味わってから、俺はフェンリルに服を渡した。


「これを身に着ければよいのか? ……むう、なんだか、暑苦しくて動きにくい。人間は不便だな」

「そうだね。だから夜寝るときは全部脱いじゃったりするんだ」

「そうなのか。確かにこれで寝るのは寝心地が悪そうだ」

『……誤った情報を教え込むのはおやめください、マスター』

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