第132話 神話級の魔物ですから
吹き飛ばされた俺は、木の幹に着地する。
「うーん、さすがにあの程度じゃ倒せないかー」
杖モードと違って、少し魔法の威力が落ちる剣モードではあったものの、フェンリルはそれほどダメージを受けたようには見えない。
『神話級の魔物ですから。……ご無事ですか、マスター?』
「問題ない。それより来るぞ」
「グルアアアアアアアアアッ!!」
少しは痛かったようで、激怒したフェンリルが猛スピードで躍りかかってくる。
振り降ろされた前脚を躱すと、背後の巨大な木がその鋭い爪であっさり引き裂かれた。
あの爪をまともに喰らったら、こんな赤子の身体では一溜りもないだろう。
俺は小さな身体を活かして、フェンリルの腹の下へと潜り込む。
そしてリントヴルムで斬りつけてやった。
だが分厚い毛の層によるクッション性と硬い皮膚のせいで、なかなか刃が通らない。
やはり皮膚が露出した部分や、先ほどのように柔らかい場所を攻撃するしかなさそうだな。
そのままお尻の方へと抜けていくと、鞭のようにしなりながら、巨大な尻尾が迫ってきた。
「っ!」
ちょっとした木の幹ほどの太さがある尻尾に殴られ、俺はフェンリルの顎下まで弾き返されてしまう。
口を開けたフェンリルは、先ほど口の中に魔法を喰らった反省からか、俺を噛み殺そうとはせずに、
「オオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!」
「~~っ!?」
放たれたのは凄まじい咆哮の衝撃波だ。
地面に一瞬にしてクレーターができるほどのそれが、頭上から降り注いでくるのだから、並の人間だったら縦方向にプレスされ、潰されていたかもしれない。
俺は咄嗟に結界を張ることで、それを防いでいた。
「お返しだ」
杖モードに変換させたリントヴルムを掲げ、まだ開いたままのフェンリルの口へ、全力の雷撃をぶっ放した。
「~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」
フェンリルの全身の毛が一瞬にして逆立つ。
これで麻痺状態になって、少しは動きが鈍ることを期待したのだが、そう甘くはなかった。
「オオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!」
間髪入れずに、再び咆哮の衝撃波を放ってきやがった。
「また結界で防ぐだけ――」
『マスターっ!』
「……マジか」
横合いから迫りくるフェンリルの爪。
それが俺の結界に亀裂を生じさせ、さらに衝撃波によって結界が押し潰されてしまう。
「ぐっ……」
小さな身体に凄まじい圧が加わり、足から地中へとめり込んでいった。
慌てて身体強化の倍率を上げる。
この弱い肉体を考慮して、ギリギリの負担に留めておいたのだが、どうやらこの神話の魔物相手にそんな余力を残してはいられないらしい。
衝撃波から辛うじて逃れると、そこから再びリントヴルムを剣モードに戻して、フェンリルの顔を執拗に狙って斬りつけていく。
やはり顔が一番、防御力の低い場所のようだからな。
だがフェンリルも簡単にはやられてくれない。
前脚の爪や牙、さらには衝撃波の咆哮を繰り出して応戦してくる。
「はぁはぁ……さすがにそろそろ限界っぽいな……」
段々と息が上がってきた。
一方、フェンリルは俺の攻撃でダメージを負ってはいるはずだが、それでも最初と比べて動きが鈍る気配はない。
それどころか、怒りでますます苛烈になってきているほどだ。
タフさが半端ない。
というか、元から肉体の強度が違い過ぎるんだよな。
『大丈夫ですか、マスター? このままではジリ貧です』
「可愛いリンリン、俺がただ漫然と戦っているだけだとでも?」
『……』
とそのときだ。
突然、フェンリルの動きが止まった。
「ッ!?」
なぜか急に身動きが取れなくなり、慌てるフェンリル。
その巨体を、いつの間にか漆黒の鎖が覆い尽くしていた。
『これはまさか……』
「拘束魔法のシャドウチェインだ。戦いながら、こっそり身体中に絡めさせていたんだよ」
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