第131話 前世と比較してどうだ
まるで凄まじい嵐に見舞われたかのように、木々という木々が倒れまくっていた。
この魔境の森の木は、幹が太くて硬く、そう簡単には倒れたりしないはずなのだが。
そしてトロルの死体が死屍累々と散乱する中に、巨大な魔物の姿があった。
意外にも、美しい白銀の毛並みを持つ狼だ。
ただし、かーちゃんより、さらに一回りも二回りもデカい。
『西の主が……』
その狼の口には、ボロ雑巾のようになったトロルが加えられていた。
並のトロルの数倍の大きさを持つトロルで、どうやらこの縄張りを支配していた魔物らしい。
白銀の狼はこちらに気づくと、そのトロルを放り投げた。
腹の大半を噛み千切られた状態のトロルは、十メートルほど先の巨樹に激突してぐしゃりと潰れる。
『こいつは予想以上の化け物さね……』
『……たぶん、フェンリルだね』
『フェンリル?』
『神話級の魔物だよ』
そのフェンリルが咆えた。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!」
その咆哮が衝撃波となって、周囲に転がっていたトロルが吹っ飛んでいく。
ブルブルッと、かーちゃんが身体を震わせた。
『……同じ狼だからって、話が通じるような相手じゃなさそうだね』
『うーん、でも変だなー? フェンリルって、神話級らしく知能が高くて気品もある魔物で、こんな風に汚らしく魔物を食べ散らかしたりはしないはずなんだけど』
リントヴルムもそれに同意してくる。
『そうですね。見たところこのフェンリル、どうやら普通の状態ではなさそうです。戦闘は避けらせそうにありませんね。いかがなさいますか、マスター? 竜化いたしましょうか?』
『いや、その必要はない。お前が休んでる間に随分と力が戻ったからな。それを今から見せてやろう。ただ、杖としてのサポートは頼むぞ』
『了解です』
俺はリントヴルムを掲げながら、かーちゃんの頭の上で立ち上がった。
『かーちゃん、離れてて』
『何のつもりだい?』
『僕に任せてよ。強くなったところ見せてあげるからさ』
『……あの化け物に、あんた一人で勝てるとは思えないけどねぇ』
『まぁ見ててって。よっと』
かーちゃんの上から飛び降り、地面へ着地する。
そして全力で身体強化魔法を使った。
『っ……この凄まじい魔力は……っ!?』
驚愕するかーちゃん。
一方、フェンリルも警戒するようにグルグルと喉を鳴らし、俺を睨みつけてくる。
『なるほど。マスター、さすが豪語するだけのことはありますね。わたくしが眠っている間に、よくここまで成長しましたね』
『前世と比較してどうだ?』
『前世のマスターと比べて、ですか? そうですね……頑張って三分の一くらいでしょうか』
『三分の一か。……十分だな!』
俺は地面を蹴って、自分からフェンリルに躍りかかった。
接近しながら挨拶代わりとばかりに、魔法を二、三発、ぶっ放してやる。
ズドドドドドオオオオオンッ!!
だがそれらはすべて、背後の木々に直撃しただけだった。
フェンリルはその巨体には似合わない俊敏さで、軽く横に飛んでそれを躱していた。
「避けて安心してる場合じゃないぞ。縮地」
「~~ッ!?」
一瞬で距離を詰めると、剣モードに変更していたリントヴルムを、フェンリルの鼻先へと振り下ろした。
「ギャオンッ!?」
悲鳴と共に血飛沫が舞う。
咄嗟に飛び下がったフェンリルへ、俺はすぐさま追撃の剣を見舞う。
ガキイイインッ!
しかしそれはフェンリルの凶悪な牙に防がれてしまった。
間髪入れずにその牙で、今度は俺を噛み潰そうとしてきたところへ、
「エクスプロージョン」
ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
「~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」
その口内へ爆発魔法を炸裂させてやった。
「レッドドラゴンにトドメを刺した戦法だが……そんなに甘くはないか」
「グルアアアアッ!!」
体内で凄まじい爆発が起こったというのに、即座に前脚で殴りかかってきた。
即座にリントヴルムでガードしたものの、俺は数十メートル先まで吹っ飛ばされてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます