第129話 気高くてカッコいい狼だね
私の名はバザラ。
Aランクのソロ冒険者だ。
『ベガルティア大迷宮』深層への、半年に及ぶソロでの冒険を終えた私は、無事に地上へと戻ってきていた。
幸い一度通った道だったこともあり、復路ではそれほど苦戦することなく、短い時間で踏破することができた。
もちろん私自身が大きくレベルアップしたというのもあるだろう。
そして探索中に強力な武具も見つけ、装備もレベルアップしている。
非常に実りの多い挑戦だった。
さらにこの実績が正当に評価されるならば、Sランクへの昇格も夢ではない。
「それにしても……久しぶりのベッドが心地よい……」
私はふかふかのベッドに寝転がっていた。
この街でも有数の高級宿の一室。
ここで長期間に及ぶ冒険の疲れを癒しているところである。
と、そのとき。
窓の向こうから、凄まじい魔力が膨れ上がったのを感じて、私は慌てて飛び起きた。
「な、何だ、今の魔力は……っ? っ……しかも、この凄まじい気配は……っ!?」
背中がぶるりと震えた。
窓の外……宿の庭の方だが、そこから途轍もない気配が漂ってきたのである。
「ば、馬鹿な……これほどの気配は……六十階層の魔物に匹敵……いや、下手をすれば、それ以上の……」
信じがたい思いで恐る恐る窓の外を覗き込んだ私が目にしたのは、全長七、八メートルはあろうかという、巨大な漆黒の狼だった。
◇ ◇ ◇
俺は宿の庭でかーちゃんを召喚することにした。
「うん、この広さがあれば大丈夫だよね」
『……マスター。杖であるわたくしですら、このような場所であの魔物を呼び出すのはやめた方がよいと理解できるのですが』
「え? そう? でも緊急事態だしなぁ。まぁちょっと話聞くだけだし、大丈夫でしょ」
召喚魔法陣が展開され、煌々とした光が弾ける。
それが収まったときには、巨大な狼かーちゃんが出現していた。
『……また急に呼び出したのかい。まったく、少しはこちらの都合ってものも考えたらどうだい? こっちだって忙しいんだけどね?』
『ごめんごめん、かーちゃん。なんか森が大変なことになってるって聞いてさ。かーちゃんたちは大丈夫?』
『全然大丈夫じゃあないね』
大きな口で溜息を吐き出すかーちゃん。
やっぱり何かあったらしい。
『森に突然、とんでもない化け物が現れてね。すでに東の主がそいつにやられちまったよ』
『とんでもない化け物? それはどんな?』
『さあね。見たことないから分からないけど、あたしら魔物は魔力に敏感だから、遠く離れていてもだいたいそいつの強さが分かるのさ。はっきり言って、残ってる南の主のあたしと、西の主が協力したって、刃が立たないだろうね』
かーちゃんにそう言わせるとは、よほどの魔物らしい。
それで魔物たちが次々と森から脱出しているようだ。
『かーちゃんたちは逃げないの?』
『逃げるつもりはないね。縄張りを侵そうとするなら、どんな相手だろうと最後まで戦うつもりさ。第一あの森以外に、群れが纏まって住める場所なんてそうそうないだろうからね』
かーちゃん一人であれば、恐らくどこでだって生きていくことができるだろう。
だが、かーちゃんは群れのボスだ。
群れの狼たちのことを放っておくわけにはいかない。
『さすがかーちゃん。気高くてカッコいい狼だね』
『……何だい、急に。気持ち悪い』
俺はかーちゃんに提案した。
『じゃあ、僕も一緒に戦うよ。ほら、この間も助けてもらったしさ』
『なに言ってんだい。さすがのあんたでも、今回ばかりはタダで済まないよ』
やれやれと首を振るかーちゃん。
『心配しなくていいよ、かーちゃん。あれからもっと強くなったから。ほら、見ての通り身体も大きくなったし』
『……あたしから見たら誤差の範囲でしかないよ。人間ってのは成長が遅いんだね。あんたと一緒に乳を飲んでた子たちは、もうとっくに成獣になってるよ』
成長をアピールする俺に、かーちゃんは呆れ顔で鼻を鳴らした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます