第128話 故郷を助ける義理などないな
「長時間の施術を、一日に何度も行っていたため、私も少々心配になって、少し休んだ方がいいと言ったのだが……施術をしていない方が疲れると言って聞かなかったのだ。実際、治癒ができなかった旅の途中、段々とやつれていっていたが、この街に来て施術した途端に元気になっていた」
だ、大丈夫だろうか?
「その治癒法を伝授したのも、貴殿だと聞いている」
「……そうなんだ」
しかしあんまり俺が治療法を教えたことを、あちこちで言い触らさないようにと言いおいていたのだが……。
改めて釘を刺しておいた方がいいかもしれない。
「しかし貴殿ほどの赤子を、魔法適性値が低いとして魔境の森に捨てるなんて……一体どういうことなのだ?」
ちなみにクリスがブレイゼル家を出たのは、四か月ほど前のことらしい。
俺が捨てられた少し後、ちょうどファナと会った頃のことのようだ。
と、そのとき。
バンバンバン、と部屋の窓を叩く音が響く。
振り返ると、真っ黒い梟が一羽、外から窓を叩いていた。
クリスが怪訝な顔で呟く。
「む? あれは……ブレイゼル家が使う伝魔梟? 何かあったのだろうか?」
クリスが窓を開けると、部屋の中に一羽の梟が飛び込んできた。
一瞬、俺とクリスの間で迷うように旋回した後、クリスの肩に止まった。
梟が嘴を開けて話し始める。
『クリスか。父だ。今どこにいるか分からぬが、すぐに実家に戻ってきて欲しい。大変なことになっている』
梟が喋っているわけではない。
この梟を通じて、クリスの父親が彼女に伝言をしているのだ。
「大変なこと……? 一体どういうことだ?」
『魔境の森に棲息している凶悪な魔物が、続々と森から出てきているのだ。我々も懸命に討伐を試みているが、一体一体が強力な上に数が多く、大いに苦戦させられている。今のところ領都ブレーゼは無事だが、ここにも多くの魔物が押し寄せてきており、城壁や結界のお陰でどうにか侵入を防いでいるといった状態だ』
「魔境の森の魔物が……? 奴らは滅多に森から出ないはずだが……」
『すでに家を出たお前に、こんなことを頼むのもお門違いかもしれぬが……』
衝撃を受けているクリスを余所に、梟は伝言を続ける。
『万一、領都が陥落するようなことがあれば、この国全土が、魔境の魔物の脅威に晒されることになるだろう。ゆえに家を出たお前にとっても無関係ではないはずだ。……とにかく今は少しでも戦力が欲しい。どうか一刻も早く、お前の力を貸してくれ。頼むぞ、クリス』
「ち、父上っ……」
そこで梟は静かになった。
もっと高度な魔法であれば、直接会話したりもできるはずだが、これは受け答えなどできず、あらかじめ用意されていた内容を一方的に伝えることしかできないのだろう。
「なんか大変な状況みたいだね」
「……そのようだ」
「クリスお姉ちゃん、どうするの?」
「どうもこうも、故郷の危機とあっては、見過ごすわけにはいかない。馬を借りて、急いで戻れば……何とか十日で着けるはず……」
正義感が強いのだろう、どうやら今すぐ戻るつもりらしい。
「レウス殿は……いや、生まれた直後に捨てられた貴殿に、故郷を助ける義理などないな」
そう呟いてから、クリスは部屋を出ていった。
「いいの? よく分からないけど、一応あんたの生まれ故郷らしいわよ。血の繋がった家族だっているはず」
「いいよ。そんな実感まったくないし。……ただ」
「ただ?」
魔境の森については別だ。
何せあそこには、狼かーちゃんたちが住んでいるのである。
「魔力が濃い魔境は、魔物たちにとっては住みやすい環境のはず。それがどういうわけか、一斉に魔境から逃げ出している。間違いなく森で何かが起こっているんだと思う」
俺は狼かーちゃんたちのことが心配だった。
だが先ほどの伝言だけでは、森で何が起こったのかまったく分からない。
「うん、直接かーちゃんに訊いてみよっと。安否確認も兼ねて」
そんなわけで、俺は宿の庭でかーちゃんを召喚することにしたのだった。
--------------
【宣伝】
よかったらこちらの作品も読んでみてください!
『転生担当女神が100人いたのでチートスキル100個貰えた』(https://kakuyomu.jp/works/16816700429459267563)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます