第127話 そっくりなのだ

「レウス殿はもしや、生誕直後に亡くなったとされている、ご当主様の第一子なのではないか?」


 クリスの言葉を受けて、俺は言った。


「あうあうあー」

『マスター、今さら赤子のフリをしたところで無意味かと』


 リントヴルムが冷静にツッコんでくる。


 ていうか、今ので思い出したぞ。

 ブレイゼル家って、俺が転生した家だ。


 道理で少しだけ聞き覚えがあるわけである。

 まぁ一週間ちょっとくらいしかいなかったので、すぐにはピンと来なかったのも仕方ないだろう。


 このクリスとかいう少女は、どうやら俺の親戚らしい。

 もしかして俺を連れ戻しに来たとかじゃないだろうな。


『だとしたら面倒すぎる。やっぱり赤子のフリを押し通すしか……』

『どう考えても無理があるでしょう。ついさっきまで普通に喋っていたのですから。とりあえず詳しい話を聞いてみては? そもそもマスターは死んだことになっているはずですし』

『そうだな』


 俺は可愛らしい感じで惚けながら、相手の意図を探ってみることにした。


「うーん、僕、赤ちゃんだから分かんないやー。でも、お姉ちゃんは何でそう思うの?」

「そうだな。まず、名前が同じレウスだ。そして見たところ、貴殿は生後半年ほどと思われるが、それもご当主様の第一子であるレウス様と同じ。もちろん、それだけなら偶然と片づけることもできただろう」


 偶然で片づけてほしいところだったが、そうはいかなかったらしい。


「確信を抱いたのは、たった今、実際に貴殿に会ってみてのことだ。というのも、その顔立ち。ご当主様の奥方であるメリエナ様にそっくりなのだ」

「それこそ偶然じゃないの?」

「偶然というには似すぎている」

「実際に比べてみたら大して似てなかったなってなるパターンかも?」

「それはない。正直、メリエナ様には私も数えるほどしかお会いしたことがないが、さすがにあれほどの美貌だ。はっきりと記憶している」


 確かにすごい美人だったな。

 その乳を吸わせてもらえると期待したのに、すぐに捨てられたこともあって、結局その機会はなかったのだ。


 あれはとても残念だった。


「母のことを覚えていないのか?」

「あはは、さすがに生まれたばかりのことなんて覚えてるわけないでしょ」


 常識だろう、とばかりに笑ってみる。


「それもそうか……いや、貴殿に常識が当てはまるとも思えないが……」

「気づいたときには、大きな狼に育ててもらってたんだー」

「大きな狼?」

「うん、なんか凄くおっきな森で」

「まさか、魔境の森のことか……? 魔法適性値があまりに低く、どこかに遺棄されてしまったという噂されていたが、あんな危険な森に……。しかもそれを生き延びたとは……」

「ん。たぶんその後、私に会った」


 ともかく、クリスの話を詳しく聞いてみた感じ、俺を連れ戻しに来たというわけではないらしい。

 彼女はそもそも実家を出た身だという。


 本家の生まれではない上に、女である以上、そのままいけば将来はどこかの貴族の家に嫁ぐ未来しかない。

 だがそれを良しとしなかった彼女は、家を出て冒険者になる道を選んだようだ。


 その度の途中、偶然レウスという名の赤子の活躍を耳にし、それで気になって訪ねてきたのだという。


「コレット殿からも色々と教えてもらった。この都市にも彼女と共に来たのだ」

「コレットお姉ちゃんと?」


 おかしいな。

 ボランテの街の冒険者相手に、魔力回路の治癒を行ってるはずなんだが……。


「それが、すでにほとんどの冒険者への治癒を終え、新天地を求めてこの都市に来たのだ。もちろん私も彼女の施術を受けさせてもらった」


 道理でクリスの魔力の流れが綺麗だと思った……って、もうボランテの冒険者の治癒を終えたって?

 さすがにちょっと早すぎやしないか?

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