第126話 見たことない顔だけど
その後、ミーナを連れ去った犯人たちは、冒険者ギルドから派遣された冒険者たちによって連行された。
この都市の冒険者ギルドは、警察組織としての役割も担っているのである。
「犯人たちが仲間割れして、勝手に自滅したってことになったみたいよ」
「え? ミーナが倒したってことにならなかったのか?」
「さすがに幼女が倒したなんて荒唐無稽でしょ。……まぁ、真実はよっぽど荒唐無稽だけど」
アンジェの話に、俺は少しショックを受けた。
せっかくミーナに頑張ってもらったのにな。
「ていうか、すでにギルドにはバレてるんだから、わざわざ隠さなくてもよかったのに」
実は一緒に攫われた赤子が俺だということは、ギルドには伏せてあった。
確かにアンジェの言う通りかもしれないが、できるだけ目立たなく生きる練習の一環として、そこはこだわりたいところだったのである。
「でも師匠が一緒でよかった」
「それはそうね。攫われたって聞いても、まったく心配しなくてよかったし。それにしても、犯人からしたらこれ以上ない不運だったわね」
そんなことを話していると、トントン、と部屋をノックする音が。
ちなみに俺たちは、三人いるのもあって、この宿でも最も広い部屋に泊っていた。
宿泊料も一番高いが、まぁAランク冒険者の財力なら余裕である。
「誰かしら?」
「女将さん?」
「んー、女将さんじゃなさそうだね。多分、それなりの強さの人」
ドアを開けると、そこにいたのはファナたちと同じくらいの年齢と思われる少女だった。
「突然の訪問、失礼する。私はクリス。Aランク冒険者だ。……ファナ殿にアンジェ殿、それにレウス殿でよろしいだろうか?」
「ん、私はファナ」
「あうあー」
「アンジェよ。Aランク冒険者というには、見たことない顔だけど?」
「つい最近、ここベガルティアに来て、Aランクに昇格したばかりなのだ」
そのクリスを部屋へと招き入れる。
彼女の視線はなぜかずっと俺の方を向いていた。
「それで何の用?」
ファナが相変わらずの無表情で訊く。
「うむ、実はそこのレウス殿に確かめたいことがあるのだ」
「師匠に?」
「あうあうー?」
俺は赤子のフリを続けたが、クリスは首を振って、
「確かに、どこからどう見ても赤子にしか見えないが……貴殿が喋れる赤子であることは知っている。Aランク冒険者であることも」
「……あうー?」
「ほ、本当に赤子なのか……? いや、しかし、コレット殿が嘘を言っているとは思えぬし……」
どうやら彼女はコレットの知り合いらしい。
「ボランテでも噂になっていた。突然とんでもない赤子が現れて、幾つもの事件を解決していったと。さらには魔力回路を治す方法をコレット殿に伝授し、ボランテの冒険者たちはそのお陰で大幅にレベルアップしたという。私もその治療を受けた一人だ」
「あうあー?」
「むう……もしかして赤子違いだったのか……?」
「あうあう?」
「こら、面倒だから、いい加減、赤子のフリするのやめなさいよ」
アンジェに怒られて、俺は仕方なく喋り出した。
「えーと、たぶん僕がその赤子のレウスだよ」
『マスター以外にそのような赤子はいないかと』
クリスがマジマジと俺を見てくる。
「ううむ……本当に喋っている……しかしこんな小さな身体でワイバーンやキングオーク、さらには魔族をも倒してしまったとは……」
「それよりお姉ちゃん、僕に何の用なの?」
「おお、そうだったな」
それにしてもこの少女の魔力の感じ、どこかで見たことある気がするな。
「私は実は魔法の名門として知られるブレイゼル家の出身なのだ」
「ん、知ってる」
「へぇ、あの有名な」
ファナとアンジェが頷くが、俺にはいまいちピンと来なかった。
まだ赤子だから、今の世界のことに疎いのは仕方ないだろう。
……ただ、何となくどこかで聞いたこともあるようなないような。
首を傾げている俺に、クリスは言った。
「レウス殿はもしや、生誕直後に亡くなったとされている、ご当主様の第一子なのではないか?」
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