第125話 みーながやっつけた

 俺の魔法で身体能力を強化された幼女が、怒りの形相で男たちを睨み上げる。


「ば、馬鹿なっ……縄を引き千切りやがっただと!?」

「そ、そんなはずあるわけねぇだろっ! 縄がゆるかったんだよ! ちゃんと結んでおきやがれっ!」

「いや、どう見たって千切れてるだろうが!」


 慌てふためく男たち。


「……? ちからが……あふれてくる……?」


 ミーナ自身も驚いている。

 今の彼女は、そこらの大人よりも遥かに強くなっているはずだった。


 さあ、行け。

 幼女無双の始まりだ。


「えーい!」


 ミーナが意を決して、男に向かって突進していく。


 自分より何倍も大きな身体の相手だ。

 普通なら弾き返されて終わりだろう。


「ぶぅっ!?」


 しかしミーナがぶつかった瞬間、男が信じられない速度で吹っ飛び、背後の壁に叩きつけられた。

 そのまま気を失って動かなくなる。


「なっ!? ど、ど、ど、どうなってやがんだよっ!? クソっ!」


 残った男は驚愕で頬を引き攣らせながらも、咄嗟にナイフを取り出して構える。

 それを見たミーナが、さすがにビクッとして後退る。


 だがすぐに足を止め、再び戦う表情に。

 俺の魔法の副次効果で、精神力までもが並の幼女のそれではなくなっているのだ。


「し、死ねぇぇぇっ!」


 男が叫びながらナイフを突き出す。

 それをミーナは右手一本で軽々と弾き飛ばした。


「~~~~っ!?」

「えいっ!」


 無防備になった男の腹へ、ミーナの頭突きが突き刺さる。


「がはぁっ!?」


 よほどの威力だったのだろう、フラフラとよろめく男。


「とどめ!」

「ひぃっ……」


 男は慌てて踵を返すと、ふら付きながらも懸命に逃げ出した。


「にがさない!」


 しかし今やミーナの方が遥かに高い瞬発力を持っている。

 あっという間に男の背中に追いつくと、そのまま跳躍して幼女ドロップキック。


「ぶふごっ!?」


 吹き飛んだ男は、玄関のドアを頭から突き破り、家屋の外まで飛んでいってしまった。


「……かった?」

「あうあー」

「れうすくん! だいじょーぶだった?」

「あうー」


 ミーナが俺を抱き上げてくれる。


「もうだいじょうぶだよ! みーなおねえちゃん、すっごくつよくなったから!」

「あうあう」

「ほらみてて! えいっ!」


 ミーナが近くの壁を殴りつけた。

 がんっ……と鈍い音が鳴る。


「~~~~~~~~っ!?」


 ミーナの顔が歪んだ。


「いたああああいっ!? あれっ? どうして!? みーな、つよくなったのに!」


 残念ながらすでに身体強化を解いてしまったからな。

 長時間あれだけの倍率で維持していたら、幼女のひ弱な身体に悪影響が出てしまうかもしれないからだ。


 それにしても思いのほか、上手くいったな。

 こうして他人を利用することで、俺は何もしていないように見えるはず。


 ふふふ、俺も赤子らしく振舞う術を覚えてきたようだ。


『……かえって怪しまれそうですが』


 男たちにこっそり睡眠魔法をかけてから、ミーナの実家でもある宿へと戻ることに。

 連れて来られる途中、気を失っていたミーナは帰り道が分からなかったので、俺が指をさして教えてやった。


「あうあー」

「つぎはあっち? れうすくん、よくわかるね!」


 やがて宿が見えてくる。

 すると外にいた従業員がこちらに気づいて「あっ」と声を上げた。


「ミーナちゃん!?」

「ただいまー」

「お、女将っ! 女将っ! ミーナちゃんがああああっ!」


 慌てて建物に駆け込んでいく従業員。

 すぐに女将さんが飛び出してきた。


「ミーナ!」

「ままー、かえってきたよー」

「よかった……っ! 無事だったのね!」


 ミーナを抱きしめる女将さん。

 俺は二人の間に挟まる格好となった。


 ……やはりこの女将さん、なかなかのボリュームをしているぜ。


「心配したのよ! 攫われたって聞いて……」

「うん。でもみーながやっつけた!」

「え? やっつけた……?」

「なんかね、すっごいちからがわいてきて、えーいってやっつけたの!」

「どういうこと……?」


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