第122話 あのトンデモ赤子だ

 アークが止める間もなく、ゼタの剣が槍の柄に直撃する。


 バキンッ!!


 柄が真っ二つに折れてしまった。

 一方、ゼタの持つ剣の方はまったくの無傷である。


 それはすなわち、アークが使っていた槍よりも、ゼタが手にした剣の方が、遥かに高い性能を有しているということで。


「……ど、どういうことだ? ミスリル製の槍だぞ? それがこんなに簡単に……」


 そこでアークはハッとした。

 ゼタが手にしているその剣に、視線が吸い寄せされてしまう。


「な、何だ、その剣は……? ミスリル製……? だがその輝きは……」

「これで一本……。次はそっちだ!」


 驚嘆するアークを余所に、ゼタがゲインを睨みつける。

 いや、睨んでいるのは彼が腰に提げている剣だ。


「そいつを貸しやがれ! さもなければ、テメェごと叩き斬ってやるっ!」

「ちょっ、待て……」


 問答無用に躍りかかってくるゼタに、ゲインは慌てて剣を抜いた。

 それもまたゼタが作ったミスリル製だったが、


 バキィィィィィンッ!!


 ゼタの剣を受けると、容易く両断されてしまう。


「ハァハァ……これで、よし、と」


 満足げに頷くゼタ。

 アークたちは呆気にとられるしかない。


「な、なんて剣だ……ミスリル製の槍と剣を、あっさり破壊してしまうなんて……」

「ああ、心配すんな。この剣は失敗作だ。アンタたちに渡すのはこっちだよ」

「「「失敗作!?」」」


 驚く彼らを余所に、ゼタはアイテムボックスと思われる袋の中からそれを取り出した。


「つーわけで、こいつが新しく打った剣と槍だ」


 手渡された武器を手にして、アークとゲインは息を呑む。


「こ、これは……」

「凄い……」


 言葉が出ないほど、それに思わず見入ってしまう二人。

 それまで使っていた武器とは桁違いの性能であることが、見ただけで分かってしまった。


「ねぇその武器、魔法付与まで施されてるんだけどーっ? しかも数が尋常じゃないし!?」


 叫んだのはエミリーだ。


「こんなレベルの魔法付与、見たことないんだけどー? 一体誰に頼んだのー?」

「いや、そいつもアタシがやった」

「自分で!?」

「ああ。真の鍛冶師たるもの、自分で魔法付与くらいできねぇとな」


 もはや伝説に残る武具にも匹敵する代物だった。

 国宝級と言ってもいいかもしれない。


「さすがに師匠に比べるとまだまだだが、それでも今のアタシとしては及第点ってところだ」

「「「これで及第点!?」」」


 驚愕しつつも、気になるワードが出てきたことに気づいて、アークが追及する。


「その師匠というのは?」

「アタシに本物の鍛冶を教えてくれた師匠だ」

「それは一体何者なんだ?」

「残念だが、そいつは言えない約束だ。師匠はあまり目立ちたくないらしい」


 アーク、ゲイン、エミリーの三人は互いに顔を見合わせた。


「「「ついさっき似たようなことを聞いたような……」」」





 ゼタが部屋を出ていく。

 どうやら彼女が過去に打ち、一流冒険者たちが使っている武具も、これから交換、もとい破壊していくつもりらしい。


 その背中を見送ったアークは、呟くように言った。


「俺の予想が正しければ……コレットにあの謎の治療法を伝授したのと、ゼタに鍛冶を指導したのは、同一人物だと思うのだが……」

「ギルド長……俺も同意見です」

「……あたしもー」


 彼らはせーので頭に浮かんだその人物について口にするのだった。


「「「あのトンデモ赤子だ」」」





 その頃、トンデモ赤子ことレウスはというと、


「よしよーし、れうすくん、かわいーね!」

「あうあー」


 幼女に抱えられて、生後四か月相応の赤子を演じていた。


 まだ五歳くらいの可愛らしい幼女だ。

 レウスのことを普通の赤子だと思っているようで、頭を撫でたり、頬をぷにぷにしたりして喜んでいる。


「れうすくん、きょーも、みーなと、おしゃべりしましょーね!」

「あうー」


 実はこのミーナという名の幼女、レウスたちが宿泊している旅館の娘で、よくレウスの相手をしてくれているのだ。

 もっとも、相手をしてあげているのはレウスの方だが。


『よかったですね、マスター。女の子に抱っこしてもらえて』

「(生憎と俺、ロリコンじゃないから……むしろ女将さんの方に抱っこしてもらいたい。胸大きそうだし)」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る