第121話 穴があったら入りたい
治療が終わり、医務室に入ったゲインたちが見たのは、ベッドの上でぐったりした様子のギルド長だった。
なぜか股間を両手で押さえ、顔を赤くしている。
「こ、この歳になって、まさかこんなに大きくなるとは……ハァハァ……」
「ハァハァ……久しぶりの治療……やっぱり、凄くよかったです……」
一方でコレットの方も頬を紅潮させ、息を荒らげていた。
まるで情事の後の男女のようだ。
ちなみにアークは見た目の割にすでに六十を過ぎているので、二人の年齢は親子どころか、祖父と孫ほども離れている。
「ええと、どうですか? 魔力の流れが良くなったのを感じられると思います」
「う、うむ」
まだ股間を抑えたまま、アークが身体を起こす。
「た、確かにっ……今までより、はっきりと魔力の流れを感じることができるぞ……っ!」
そのことに興奮したのか、拳を握って両手を上げるアーク。
全員の視線がその下半身に集まった。
「「「あ……」」」
膨らんだ下腹部を慌てて隠しながら、誤魔化すように彼は訊いた。
「し、しかし、一体どうやってこんな治療法を……?」
「ええと……それは言えない約束なんです」
「ということは、つまり自分で編み出したというわけではないのか?」
「は、はい……」
確かにこんな若い少女が、自らこのような治療法を生み出したとは考えづらい。
「では一体、誰が……いや待て。つい先日まで、あの赤子はボランテの街にいた……まさか……」
彼の頭にある考えが浮かんだ、そのとき。
「も、申し訳ありません、ギルド長。またお客様が……」
先ほどの職員が声をかけてくる。
「今度は誰だ?」
「それが、鍛冶師のゼタ氏でして」
「ゼタが?」
アークもよく知る女鍛冶師だ。
腕のいい鍛冶師が多くいるこのベガルティアにあって、若くしてトップに立つと謳われるほどの天才である。
武具を打つ相手を選ぶ偏屈な人物ではあるが、この都市のAランク冒険者の大半が彼女にお世話になっていた。
アークが武器として使っている槍やゲインの剣も、彼女に打ってもらったものだ。
「一体何の用だ?」
「過去に自分が作った武具を回収させてほしい、と仰っていまして……」
「どういうことだ?」
「代わりに新しく打ったものを無償で提供したい、と。あんなゴミクズ同然の武具を平然と作っていたことが、恥ずかくて仕方がないとか……」
ますます意味が分からず、揃って首を傾げる。
彼女の武具は非常に優秀で、彼らはその性能に満足していた。
「それがゴミクズ同然……?」
この治療法を編み出したという人物のことも気になるが、先にこちらに対応しておいた方がよさそうだと、アークは直感的に思った。
「と、とにかく、ギルド長室に通してもらえるか? すまない、ええと……コレット、だったか? また詳しい話は後日にでも聞かせてくれ」
二人の少女を分かれて、アーク、ゲイン、エミリーの三人は、医務室からギルド長室へと戻ってきた。
すぐにゼタがやってくる。
「職員から話は聞いたが……改めて詳しく聞かせてもらえるだろうか? 正直、いまいち要領が得なかったものでな」
「ああ。だがその前に、アタシが作った槍を見せてくれないか?」
「む? もちろん構わないが……」
ゼタに槍を手渡すアーク。
五年ほど前に打ってもらった槍で、それ以外、ずっと愛用している代物だ。
それを受け取ったゼタは、大きく顔を歪めた。
「くっ……何だ、この駄作は……っ!? アタシは今まで、こんなもんを平然と顧客に使わせてたってのかよっ!? ああっ……穴があったら入りたいってのはこのことだぜ……っ!」
そして憤ったようにその槍を地面に叩きつけると、何を思ったか、腰に提げていた剣を抜いて、それを地面に転がる槍に振り下ろそうとした。
「な、何をっ!?」
アークが慌てて後ろからゼタを羽交い絞めにし、どうにか抑え込む。
ゼタが叫んだ。
「放してくれ! ちゃんとした槍を打ってやるから! だからこいつは破壊させてくれ! こんな槍が存在しているなんて、アタシのプライドが許さねぇんだよ!」
「お、落ち着け! 言っている意味が理解できん! この槍のどこがダメだというんだ!?」
「全部だ……っ! 何から何まで全部最悪なんだよっ! んのっ!」
「っ……」
物凄い力で無理やり振り払われるアーク。
次の瞬間、ついにゼタの剣が槍へと振り下ろされたのだった。
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