第119話 客というのは君か

「しかし本当に何者なのだ、あの赤子は……。ボランテのギルド長から聞いていた以上だ」

「そういえば、最近そのボランテからこの街に来る冒険者が増えていますね」


 ギルド長アークの言葉に、ゲインが頷く。


「そうなのだ。それまで大した実績もなかった冒険者たちが急に力を付けて、この都市に挑戦してきているらしい」


 ここベガルティアは、冒険者の聖地だ。

 多くの冒険者にとって憧れの地である一方で、下級冒険者が稼ぐのにはあまり適していない。


 そのため他の街で経験を積んでから、この都市に挑むというのが、この国の冒険者界のスタンダードとなっていた。


「それ自体は喜ばしいことではあるが……明らかに多過ぎる」

「そのボランテから来たって子から聞いたんだけど、なんでも、受けるだけで簡単に強くなれる治療があるんだってー」

「何だ、そのいかにも怪しい話は……」


 エミリーの話にゲインが顔を顰めるが、アークはすでにその情報も掴んでいるようで、


「それが、どうやら最近ボランテからこの都市にやってきた冒険者たちは、ほぼ例外なくその治療とやらを受けているらしいのだ」

「で、では、本当にそれで強く……?」

「俄かには信じられないが……ボランテのギルド長ドルジェも、それで実際に強くなったと本人から報告を受けている。何なら若い頃より調子が良いくらいだと。ギルド長を辞めて、もう一度現役の冒険者をやりたいとまで言い出していて、困っているところだ」


 ボランテのギルド長は元Aランク冒険者だが、現役を引退してすでに十年以上は経っているはずだった。


「その現役時代より……一体どんな治療を……」


 簡単に強くなれるというのが本当なら、自分もぜひ受けてみたいものだと思うゲイン。

 彼自身、Aランク冒険者として活躍しているが、ここ最近の事件を通して、ちょうど己の未熟さを痛感していたところだった。


「……失礼します」


 とそこへ、ノックと共に職員が入ってくる。


「ギルド長、お客様がお越しですが、いかがいたしましょうか?」

「客? この時間にアポなど取っていなかったはずだが」

「はい。ですので、ひとまず事情だけ伺い、後日改めて、と思ったのですが……ボランテのギルド長からの紹介状を持っておられまして」

「ドルジェの? こ、これは……っ!?」


 職員から差し出されたその紹介状に目を通し、アークは驚く。

 そして職員に命じた。


「す、すぐにその客をここに通してくれ!」

「か、畏まりました」


 いったいどうしたのだろうかと互いに目を見合わせるゲインとエミリーに、アークは言った。


「どうやらその治療を行っているという人物が、俺に会いに来たらしい」

「「えっ?」」


 噂をすれば影、という言葉があるが、絶妙なタイミングだった。

 果たして一体どんな人物なのか、本当にそんな治療があるのか、気になって仕方がない彼らのところへ姿を見せたのは、


「し、失礼します……」


 随分とオドオドした少女だった。


 まだ十代の半ばから後半くらいだろう。

 緊張した面持ちで、彼女は自己紹介してくる。


「あ、あの……コレット、と言います……」


 こんな気弱そうな少女が?

 と疑問符を浮かべる彼らの前に、続いてもう一人、長身の少女が部屋へと入ってきた。


 こちらも若いが、先の少女と違ってしっかりしてそうだ。

 もしかしたら彼女の方が件の人物かもしれない、


「……俺がギルド長のアークだ。客というのは君か?」

「いや、私はただの彼女の付き添いだ。私はクリス。Bランク冒険者だ」


 どうやら最初の少女の方らしい。

 しかし要件はクリスと名乗った長身の少女が説明してくれた。


 ボランテの街で、冒険者たちに対して「人を簡単に強くさせる治療」を施してきたという少女コレット。

 だがすでにボランテを拠点としていた冒険者の、ほぼ全員に治療を終えてしまったため、新天地を求めてここベガルティアへとやってきたらしかった。


「あ、あたし……もっと多くの人に治療を施したいんです……っ! ハァハァ……」


 なぜか鼻息荒く主張する少女に、アークたちは思わず後退った。

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