第120話 治療を始めますね

 師匠がボランテの街を去ってしまい、たった一人で魔力回路の治療をする羽目になってしまったコレット。

 最初は非常に心細かったが、すぐにそんな気持ちなど吹き飛んでしまった。


 治療を受けた冒険者たちが、驚くほど喜んでくれたのだ。


「先生のお陰でランクが上がったよ!」

「俺もだ! もう何年も足踏みしてて、ここが自分の限界だって思っていたのに……それがあの治療を受けて、あっという間にその限界を超えちまった!」

「人生が変わった! コレット先生には感謝してもし切れねぇぜ!」


 今までこんなに人から喜ばれ、感謝を述べられたことなんてなかった。


「あたしが……ここまで人のためになれるなんて……」


 これこそが自分の天職だったのだと、感動を覚えるコレット。

 むしろこの治療によって、彼女自身の人生が大きく変わったと言って過言ではなかった。


 彼女はひたすら治療に没頭した。

 次から次へと彼女の施術を受けようとやってくる冒険者たちに、朝から晩まで治療を施し続けたのだ。


 もはやお金などどうでもよくなっていた。

 ただただ、もっと多くの人にこの治療を受けてもらいたい。


 その一心で頑張り続けた結果、あっという間にボランテを拠点としていた冒険者たち全員に、治療を終えてしまったのである。


 そこで冒険者の聖地とされるベガルティアへとやってきたのだ。

 ここならもっと大勢の冒険者がいるはずだった。


 念のためボランテのギルド長に紹介状を書いてもらって、ベガルティアを治める冒険者ギルドへ、直談判に来たのである。

 ボランテのときと同じように、できれば冒険者ギルドの公認を貰いたかったのだ。


「どうか、この街での治療を許可してください……っ! ハァハァハァ……」


 旅の途中、治療を行っていなかっただけで気持ちが落ち着かず、鼻息が荒くなってしまうコレット。

 ……ほとんど中毒状態である。


「し、心配は要らない。ボランテのギルド長にも認められた、確かな治療だ」


 小柄なギルド長が「だ、大丈夫なのか、この少女……」と引いている中、クリスが慌ててフォローする。

 彼女はボランテの街でコレットの治療を受けた冒険者で、ちょうど同じタイミングでベガルティアに行こうとしていたため、護衛も兼ねて同行してもらったのだ。


「もちろん私も受けて、劇的に変わった実感がある」

「……とりあえず、具体的にどのような治療を施すのか教えてもらえるだろうか?」






「なるほど、魔力回路の治療か……」


 詳しい説明を聞き終えたアークは、神妙な顔で呟く。

 当初は何とも怪しげな話だと思っていたが、聞いてみれば意外と理屈が通っていた。


「確かに魔力には流れがある。しかしまさか、その流れそのものを人為的に調整することが可能だとは……」


 もし効率よく魔力を扱うことができるようになれば、魔法使いのみならず、前衛職にも役立つはずだった。


「よし、ならばまず俺が試しに受けてみよう」

「ぎ、ギルド長自ら? それなら、まず我々が……」

「心配は要らん。どのみちすでに引退した身だ。未来あるお前たちより適任だろう」


 自ら被験者を買って出るアーク。

 そうして治療を受けることになったのだが、


「ハァハァ……そ、それでは……治療を始めますね……ハァハァ……」

「ほ、本当に大丈夫なのだろうな……?」


 医務室のベッドの上に半裸で寝かせられたアークを見下ろし、興奮したように少女が鼻息を荒くしている。

 もし二人の配置が逆だったら、完全にアウトな状態だろう。


 一方、ゲインたちは医務室の外に待機させられていた。

 Bランク冒険者だという少女クリスが言う。


「たとえ中から変な声が聞こえてきても、あまり気にしないように。治療に伴うものだからだ」

「……もしかして痛みを伴うのか?」

「うわー、ちょっと怖いかもー」

「いや、痛みではない。伴うのは……快感だ」

「「へ?」」





「んああああああああ~~~~っ♡」


 部屋の中から響いてきたのは、ギルド長の発したものとは思えない、艶めかしい声だった。

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