第118話 間違いなく嘘ですね

 原型が残らないほどバラバラに引き裂かれたアンデッドが、死屍累々と転がる凄惨な平原に、漆黒の杖が落ちていた。


「バハムート、お疲れ」

『マスター……わたし、頑張ったよ……? マスターの、ために……』

「ああ、頑張ったな。あれだけいたアンデッドを、しっかり全滅させてくれるなんて。本当にバハムートは偉いぞ」

『ふわあぁ……マスタぁ……大好きぃ……』

「だから今はゆっくり休むんだ。お休み」

『うん、マスター……お休み……』


 俺は休眠モードに入ったバハムートを亜空間の中へと仕舞い込む。


「よし、これでしばらくは静かになるぞ」

『……マスターも罪な男ですね』


 リントヴルムの呆れた声を聞き流しつつ、俺は街へと戻ることに。

 途中、城壁の上で衛兵たちが呆然としていた。


「な、何が起こったんだ……?」

「アンデッドの大群が攻めてきたと思ったら、恐ろしいドラゴンが現れて……」

「お、おい、見ろ! 空が!」


 魔族が死んで魔法の効果が切れたのか、闇が晴れて元の青空が戻ってきた。


 冒険者ギルド前の広場に戻ると、こちらはまだ交戦中だった。

 ただしもうほとんど決着が付きかかっている。


「ファナお姉ちゃん、アンジェお姉ちゃん、ただいま」

「師匠、お帰り」

「ねぇ、これはもしかしてあんたのお陰?」


 アンジェが指さしたのは、崩れかけた骸骨だ。

 アンデッドらしいが、もはやほとんど動くことができなさそうである。


「あ、あり得、ませ、ん……あの方、からの……力の、供給が……失われる、なんて……」

「この骸骨は?」

「ワイトキング。元モルデア」

「なんか黒幕的なやつの力で、ワイトキングになったらしいわ。ただ、さっきまでどんだけ攻撃しても一瞬で復活してたのに、急にしなくなったのよ」


 恐らく俺が魔族を倒したからだろう。


「師匠がやった?」

「あの方とやらが何者か分からないけど、たぶんあんたがやったんでしょ」

「うん」

「……ま、また、貴様の、仕業か……っ!? 一体、どれだけ、わたくしの、邪魔を……すれば、気が済むのですか……っ!?」

「そんなこと言われても」


 怨念が靄となってモルデアから噴き出す。

 放っておくと自力で復活しそうなので、とっととあの世に送ってやることにした。


「ホーリーレイ」

「ぎゃあああああああっ!?」


 完全に消滅するモルデア。

 それにゼブラが「チクショウ」と咆えた。


「モルデアめっ、さっさと浄化されちまいやがって……っ!」

「散々手こずらせてくれたな。だがお前はここで終わりだ」


 ギルド長が決着を宣言する。


「クソがっ! オレ様はまだ死なねぇぞっ!」

「逃がすか」


 背を向けて逃走しようとするゼブラに追いつき、ギルド長が首を刎ねた。


「レウス、浄化を」

「え? うん。ホーリーレイ」

「クソクソクソぉッ! クソッたれがあああああああああああ………………」


 モルデアの後を追うように、ゼブラもまた消滅したのだった。








「さて。それでは詳しい話を聞かせてもらおうか、レウス」

「うん。えっとね、僕が街の外に向かったら、ちょうどそこに謎の黒いドラゴンが飛んできてさ、アンデッドの大群をたった一体で殲滅させちゃったんだ」

「……そのドラゴンとやらに見覚えは?」

「あはは、あるわけないでしょ? もちろん見ず知らずの赤の他竜だよ。黒幕の魔族を倒したら、そのままどっか行っちゃったし」

「で、今回の黒幕はその魔族だったと?」

「多分そうだよ。なんか大きなアンデッドに変身してたし。そのドラゴンが食べちゃったから、残骸も見つからないだろうけど、僕がこの目で見たから間違いないよ」

「なるほど。つまるところ、レウス、お前は今回、何もしていない、と」

「うんうん、その通り。僕はただ街の外に出ただけだったよ、あはははー」


 と、いうことにした。

 すべてを謎のドラゴンの仕業であると主張し、成果を擦り付けたのだ。


 我ながら完璧な作戦だと思うが、もしかしたら何か勘づかれるかもしれない。

 少しだけ不安になっていると、


「そうか。分かった。ドラゴンの目撃証言もあるし、恐らくそうなのだろう」


 よしよし、どうやら信じてくれたようだ。


『……マスター、本当に誤魔化せたとでも?』



    ◇ ◇ ◇



 赤子が部屋を出ていくのを見送ってから、ギルド長アークは同席していたAランク冒険者のゲインとエミリーに問う。


「二人はどう思う?」

「間違いなく嘘ですね」

「うん、嘘だねー」

「……まぁ、そうだろうな」


 三人の意見は完全に一致していた。

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