第115話 キリがないんだけど
ファナとアンジェ、二人の攻撃を受けて、モルデアが展開していた結界が粉砕された。
「ば、ば、馬鹿、な……?」
予想外の事態に、骸骨の顎がポカンと開く。
「ん。さすが師匠の剣」
「……やっぱり出鱈目でしょ。せいぜいミスリルだから、大したことないとか本人は言ってだけど」
二人が手にしているのは、レウスが作った高純度のミスリル武器。
しかも様々な魔法付与が施されていて、製作者自身の「そこそこの性能の武器」という認識とは裏腹に、国宝級の武具を軽く凌駕するような代物である。
「くっ……ですが、結界を、破った程度で……いい気に、ならないで……ほしいですねぇ……っ! ライトニング、ブラック……っ!」
モルデアの杖から二股の黒い雷が放たれ、ファナとアンジェに迫る。
だがそれを二人は武器で受け止めた。
「なっ……何だと……っ!?」
「ん。雷撃への耐性もある」
「……でも確か、気休め程度、って言ってなかったっけ?」
気休めどころか、ほとんど無効化してしまったようで、二人とも少しだけ身体がビリっとしたぐらいだった。
「ん、今度はこっちの番」
「覚悟しなさい、この骸骨」
二人が同時にモルデアに躍りかかる。
ファナの剣が杖を手にした右腕を斬り飛ばし、アンジェの拳が左肩を粉砕した。
「ふ、ふひゃっ……ふひゃははははは……っ!」
しかし骸骨は痛がるどころか、顎を鳴らして大きな笑い声を響かせる。
元より痛みなどないアンデッドではあるが、この状況で哄笑するモルデアに、ファナとアンジェは眉根を寄せた。
次の瞬間、切り離したはずの右腕が飛んできてくっ付き、さらには砕け散った骨の破片が集まって左肩が修復する。
「……戻った」
「ちょっ、こいつまで再生するっていうの……っ!?」
「ひゃははっ……その通り、なのです……っ! わたくしも、また、いかなる攻撃を、受けようとも……永久に、さいせあぎゃっ!?」
途中で声が途切れたのは、ファナが頭蓋を真っ二つに斬り裂いたからだ。
さらにアンジェが拳を叩きつけ、頭蓋が砕け散る。
それには飽き足らず、地面に落ちた破片を踏みつけて粉々にしていった。
「ん、これならどう?」
「さすがに簡単には元には……」
その予想は甘かった。
粉塵と化した骨があっという間に集束し、元通りの骸骨の頭へと再生してしまう。
「だったら壁に閉じ込めてやるわっ! アースウォール!」
今度はファナが斬り落とした頭蓋を埋没させるように、アンジェが土の壁を作り出した。
これで頭部が身体へと戻るのは不可能なはずだ。
と思いきや、
「っ!? なに、この靄は……っ!?」
土壁から怪しげな黒い靄が漏れ出してきたかと思うと、それがモルデアの首の切断面へと集まってくる。
それが頭蓋を形成し、やがて元通りになってしまった。
「ひゃははは……っ! 無駄、ですよ……っ! わたくしは、何度だって……蘇ることが、できるのです……っ!」
身体の部位を分離し、閉じ込めても意味がないらしい。
「どうやって倒せってのよ……っ!」
「ん、ヤバい」
それでも二人にできるのは、とにかく攻撃をすることだけだ。
それから嵐のような猛烈な勢いで、二人はモルデアを攻め立てた。
何度も何度も骨の欠片が飛び散り、時には胴や首が真っ二つに。
しかしやはりすぐに修復してしまう。
ただ、どうやらモルデアが修復している間は、他のアンデッドの再生速度が幾らか落ちるらしい。
だからわざわざ結界を張っていたのだろう。
二人が猛攻撃を加えていることもあって、劣勢にあった冒険者たちが、辛うじて盛り返してきていた。
「ちぃっ、モルデア、何やってやがる! テメェのせいで再生が追い付いてねぇじゃねぇか!」
ゼブラが苛立っている。
だがそれも時間の問題だ。
「くっ……これじゃキリがないんだけど!」
「ん……」
「残念ながら、あなた方に、打つ手など、ありません……この辛うじて、保っている、均衡も、いずれは、限界が、来て……崩れる、ことでしょう……あるいは、街の外から押し寄せる、アンデッドの大群に……呑み込まれるのが、先でしょうかねぇ……?」
そうモルデアが勝ち誇るように告げたときだった。
突然、その骨が修復しなくなってしまったのは。
「……は?」
「ん、戻らない?」
「っ……何が起こったの?」
ガクガク、とモルデアが顎を鳴らす。
「な、な、な……ば、ば、馬鹿な……ま、まさか、あの方が……」
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