第116話 その心配は無用だ
デュラハンを聖属性魔法で倒した俺は、亜空間から剣を取り出し、構えた。
「この赤子……剣まで使えるというのか?」
「縮地」
彼我の距離を詰め、すれ違いざまに斬撃を放って通り過ぎる。
「っ……」
鮮血を散らしながら右腕が宙を舞い、地面へと落下した。
よしよし、かなり縮地も様になってきたな。
まだまだ前世のレベルには程遠いが、この赤子の身体としては十分な出来だろう。
「とはいえ、この量産品の剣じゃ、一撃でボロボロだな」
魔族の右腕を奪ったが、それだけで刃に幾つもの罅が入ってしまった。
まぁ魔族というのは防御力も高いし、仕方がない。
「……とんでもない赤子だな。貴様、本当に人間か?」
「もちろん人間だよ? あれ?」
魔族が右腕を拾い、切断面にくっ付ける。
するとそのまま元通りになってしまった。
「治癒魔法を使ったようには見えなかったけど……次は首でも斬ってみるかな?」
再び縮地を使って、今度は首を刎ねてやる。
しかし地面をバウンドした頭は、そのまま魔族の首へと舞い戻った。
「……なるほどー。自分自身をアンデッドにしちゃってるわけか」
「ご名答だ」
どうやらこの魔族、アンデッドを操っているだけではなく、己をアンデッド化させてしまっているらしい。
「素晴らしいぞ、アンデッドというのは。生きているわけでも、死んでいるわけでもない。まさに神に逆らうような冒涜的な存在……」
魔族は恍惚とした顔で語る。
「虫けらのような人間どもも、アンデッドとしてならこの地上に活かしておく価値も十分にあるだろう。私はこの世界を不死者の楽園に変えてみせるのだ」
……少々特殊な考えを持った魔族のようだな。
まぁ魔族というのは大抵、どいつもこいつも個性や主張が強いものだ。
それゆえ徒党を組むのが非常に苦手で、だからこそ人類によって絶滅寸前にまで追いやられることとなってしまったわけだが。
「赤子、貴様も私がアンデッドにしてやろう。良い素体になるぞ」
「せっかくのお誘いだけど、お断りだね。ホーリーレイ」
相手がアンデッドと分かれば、先ほどデュラハンにも使った聖属性の魔法で倒すしかない。
高位のアンデッドは物理的な攻撃が意味ないからな。
しかし俺が放った浄化の光を、魔族は片手であっさりと握り潰してしまった。
「この程度の魔法が私に効くとでも思ったか? せっかくの機会だ、貴様に私の真の姿を見せてやろう」
溢れ出す膨大な魔力とともに、魔族の身体が変貌を始めた。
ボコボコと全身から人間の腕や足、さらには頭部のようなものが生えてきたのである。
「……こいつも変身するのか」
やがてそこに現れたのは、無数の人間の身体を強引に捏ね合わせて作り上げた、巨人の上半身だった。
「「「ああああああ……」」」
あちこちから人の顔らしきものが生えており、そんな不気味な声を発している。
「どうだ、素晴らしいだろう? これぞ、死霊術を極めた私の最高傑作だ」
魔族の声が上から降ってくる。
巨人の額の辺りに埋まった状態で、こちらを見下ろしていた。
「うーん、凄いけど、羨ましくはないかなー。動きにくそうだし」
「その心配は無用だ。すべてを我が手足のように、自由自在に操ることができる」
巨人の腕が伸びてきた。
アンデッドの身体を交ぜ合わせて作り出した、何とも悍ましい腕だ。
咄嗟に飛び下がって、俺を捕まえようとしたそれを躱す。
「ホーリーレイ」
浄化魔法を見舞うと、肉塊の一部が消失する。
だがそれも一瞬のことで、すぐに奥から新たな肉が盛り上がってきて、元通りになってしまった。
どうやら大量のアンデッドが、めちゃくちゃに圧縮されてあの状態になっているらしい。
それを完全に浄化するのは至難の業だろう。
と、そのときだった。
足元に気配を感じて咄嗟に身構える。
次の瞬間、地面から生えてきたのは巨大な〝咢〟だった。
「うわっ?」
それはドラゴンの頭だった。
ただし凄まじい腐乱臭を放っている。
「……ドラゴンゾンビ?」
「言い忘れていたようだ。今まで見えていたのは上半身だけ。
俺はドラゴンゾンビに丸呑みにされてしまった。
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