第114話 一瞬で元通りだ

 ガキィィィィンッ!


 ゼブラの身体が繰り出してきた斬撃を、アークは辛うじて槍の柄で受け止めた。


「馬鹿なっ……そんな状態でも動けるだと!?」

「くはははははっ!」


 驚愕するアークの目の前で、ゼブラの頭部が宙を舞った。

 そのまま切り離された身体の上に乗っかると、


「なっ……」


 あっという間にくっ付いてしまった。

 首には傷痕すら残っていない。


「くくく、最高だぜ、モルデアよォ。テメェの力があれば、首を斬られても一瞬で元通りだ」

「……だから、言ったでしょう……あのとき、あなたが勝手に……一人で、動いてなければ……ギルド長を、確実に、仕留められた……というのに……」


 モルデアが歯を鳴らして嗤う。


「ふふふ、見ての通り……このわたくしの、ワイトキングの力が、あれば……モルデアは、どんな傷を、受けようと……一瞬で再生、するのです……」

「ちっ、冗談じゃない……」


 ただでさえ厄介なアンデッドと化したゼブラだ。

 モルデアがいることで、さらに瞬間再生してしまうとなると、もはや無敵に近い。


 厄介なのはそれだけではなかった。


「何だよ、こいつら!?」

「傷がすぐ元通りになりやがるぞ!?」


 すでに他のアンデッドと激突していた冒険者たちが悲鳴を上げる。

 どんな攻撃を受けても、アンデッドの傷が一瞬にして再生してしまうのだ。


「もちろん、ゼブラ、だけでは……ありません……わたくしの、この、力ならば……ここにいる、すべての……アンデッドたちを……同時に……瞬間再生、することが……可能なの、です……」


 アンデッドといっても、決して不死身なわけではない。

 通常は頭を潰されたり身体をバラバラにされたりすれば、さすがに動きを止める。


 だがワイトキングとなったモルデアがいる限り、ここにいるアンデッドたちは、永遠に戦い続けることができるということ。


「そんなのありかよ!?」

「い、いや、だったら、やれることは一つ……」

「ああ! 最初に奴を倒しちまえばいいんだ!」


 冒険者たちが一斉にモルデアへと躍りかかった。

 モルデアさえ倒してしまえば、瞬間再生を食い止めることができるはずだと考えたのだ。


「くっ……けど、この数を突破するのは……」

「チクショウっ! 近づくことすらできやしねぇ!」


 しかしそんな彼らの行く手を阻むように、次々とアンデッドたちが立ちはだかる。

 その中には、リベリオンに属していた元冒険者もいて、アンデッドであるがゆえに我が身を省みることもなく襲いかかってくるのだ。


 だがそうした強力なアンデッドを押し退け、モルデアの元まで辿り着いた冒険者たちがいた。


 Aランク冒険者のゲインとエミリーだ。


「はああああああっ!」

「アイスニードルっ!」


 ゲインの剣と、エミリーの魔法が両側からモルデアに迫る。


「なっ!?」

「えっ!?」


 そんな彼らの攻撃はしかし、モルデアのすぐ手前で止められてしまった。


「これは……」

「結界!?」

「ふふふ……この、わたくしが、何の対策もせず……無防備に、姿を晒している、とでも……思いましたか……?」


 そうだった、とゲインたちは生前のモルデアの性格を思い出す。

 副ギルド長というポストを務めていたこのエルフは、慎重で狡猾な男だった。


 どうやらそれは、アンデッドとなっても変わらないらしい。


「なんという硬さの結界だ……っ!」

「全然破れそうにないんだけどーっ!」


 何度も攻撃を試みる二人だったが、モルデアが展開した結界はビクともしない。

 

「ふふふ、無駄、ですよ……その程度の、力では、わたくしの、結界を破るなど……不可能です……しかし……そんなところで、ウロチョロされていては……とても、目障りです、ねぇっ……」


 モルデアが杖を振るうと、黒い雷が射出された。

 それが結界をすり抜け、ゲインたちに直撃する。


「「あああああっ!?」」


 黒い雷に焼かれた二人は、がくりとその場に膝を突く。


「くそ……生きていた頃より魔法が、強力になっているだと……?」

「うわーっ、痺れたーっ!」


 そのときダメージを負った彼らの元へ、加勢がくる。


「ん、大丈夫?」

「……どうやらこのエルフ、骸骨になって強くなってるみたいね」


 ファナとアンジェの二人だ。


 とにかくあの結界を破壊しない限り、どうにもならない。

 そろって武器を構え、思い切り地面を蹴った。


「全力で行く」

「負けないわよ!」

「ふ、ふふ……小娘、ごときに……わたくしの結界を……破れる、わけが――」


 パリイイイイイイイイイイイイイイイインッ!


「――へ?」

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