第113話 つくづくしぶてぇ奴だな
レウスがアンデッドの大群目がけ、思い切りバハムートを投擲した頃。
「な、なぁ、ほんとに街の外の方には誰も行かなくていいのか?」
「とんでもない赤子だと噂には聞いているが……さすがに万を超すアンデッドを一人でどうにかできるとは思えないんだが……」
「街中に突入されたら尋常じゃない被害が出ちまうぞ……?」
冒険者たちは大きな不安を口にしていた。
それを一蹴したのは、二人の少女たちだ。
「あいつなら心配は要らないわ。間違いなく何とかしてくれるはずよ」
「ん。師匠を信じるべき」
アンジェとファナである。
若いとはいえAランク冒険者に断言されては、誰も反論することはできない。
「二人の言う通りだ。それよりも俺たちは今、目の前の敵に集中するべきだろう」
「相手の数は少なくても、正直こっちも十分な戦力とは言えないかもねー」
さらにベテランのAランク冒険者であるゲインとエミリーが主張する。
彼らの視線の先には、真っ直ぐこの建物へと向かってくるアンデッドたちの姿があった。
その先頭にいるのはゼブラである。
「ちっ、あの野郎、完全に回復してやがる」
忌々しそうに舌を鳴らしたその人物に、その場にいた冒険者たちが「あっ」と声を上げた。
「ギルド長!?」
「お、起き上がって大丈夫なんですか!?」
先ほどまで瀕死の状態だったギルド長のアークだ。
「ああ、お陰様でピンピンしてる。むしろ持病が治って普段よりも調子がいいくらいだ」
元Sランク冒険者の復活に、勢いづく冒険者たちだが、しかし当人の表情は険しい。
「気を付けろ、お前たち。かなり厄介な相手だぞ」
やがて互いの距離が十メートルにまで迫ったとき、ゼブラが口を開いた。
「つくづくしぶてぇ奴だな、アークの爺さんよォ」
「それはこっちのセリフだ。アンデッドに堕ちてまで俺を殺したいか」
「くくく、オレ様はむしろ気に入ってんだぜ、このアンデッドの身体をよ? テメェも知っての通り、痛みも疲労も感じねぇ。ステータスだって、生きてた頃よりもパワーアップしちまったぐらいだ。しかも受けた傷は放っておけば回復するわけだからなァ!」
「……で、そっちの骸骨は、まさかとは思うがよ」
そこでギルド長が睨みつけたのは、ゼブラのすぐ後ろにいる謎の骸骨だった。
その骸骨がカタカタと顎を鳴らしながら言葉を発する。
「ふ、ふふ、ふふ……よく、分かりまし、たね……そう、です……わたくしは、モルデア……」
モルデアはギルド前の広場で、火炙りにされて死んだはずだった。
だがそのまま晒し者にされていたはずの死体は今、その広場から姿を消している。
「アンデッドとして蘇ったってわけか。どれだけ現世に未練があったんだよ。だが、こんな短期間でアンデッド化するなんて……」
「ふふふ、それもこれも、あの偉大なるお方の、力……お陰で、こうして……ただのアンデッドではなく……不死者の王……ワイトキング、として……蘇ることが、できたのです……」
「偉大なるお方だと?」
どうやらモルデアの背後には、さらに何かいるらしい。
モルデアを高位のアンデッドに変えたのみならず、街へと迫るアンデッドの大群をも生み出した存在なのだろうか。
「……今は考えたくもないな」
ともかく目の前のアンデッドの集団を殲滅するところからだと、背筋に冷たいものを感じながら槍を構えるアーク。
「今度こそ、オレ様があの世に送ってやるぜェッ!」
そこへゼブラが突っ込んできた。
アークは即座にそれを迎え撃つ。
激しい金属音と共に、互いが一瞬で交差した。
ザンッ!
くるくると生首が宙を舞った。
地面に落ちて転がったのは、ゼブラの頭部だ。
「……な?」
「悪いが、長々とお前の相手をしている暇はないんでな」
目を見開くゼブラを余所に、アークはすぐさまワイトキングと化したモルデアへと意識を向ける。
「ふふふ、油断は……大敵、ですよ……?」
「なに?」
「ギルド長! 危ない!」
「っ!?」
咄嗟に振り返ったアークが見たのは、首を失ったまま躍りかかってくるゼブラの身体だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます