第112話 可愛い可愛い赤ちゃんだよ
『マスタあああああっ!?』
アンデッドの群れの真ん中に放り込まれたバハムートが、捨てられた子犬のように啼く。
『お願いだ。どうか俺を助けてくれ、バハムート。……他に頼れるやつがいないんだ。お前だけが頼りなんだよ』
『ふああああああっ! マスターのために頑張るううううううっ!』
漆黒の杖であるバハムート。
それが禍々しい靄を噴出しながら、その姿を変貌させていく。
それどころか体積まで急激に増加し、ついには一体の漆黒のドラゴンが、アンデッドの群れのど真ん中に屹立していた。
「オアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
その顕現の咆哮だけで、周囲のアンデッドたちが軒並み吹っ飛んでいく。
あれが光輝竜リントヴルムと対を成す、最恐最悪の古竜。
すなわち闇黒竜バハムートである。
正直、アンデッドとは同属性と言える古竜ではあるが、そんなものは誤差でしかない。
無数の刺が生えた尾を軽く振るうだけで、十体を超すアンデッドが一瞬にして無残なミンチと化した。
低位のアンデッドであれば、それでもう動かなくなる。
巨大な古竜がアンデッドの群れを蹂躙する中、俺はさらに空を舞って、北の森の上へとやってきていた。
あのアンデッドの大群が現れたと思われる森だ。
「ええと、間違いなくどこかにこの事件の首謀者がいるはず……あ、いたいた」
俺はすでに発動している隠蔽魔法で姿を隠しながら、その森の中へと降り立つ。
「何だ、あの古竜は……? 一体どこから湧いてきたというのだ……?」
怪しげな男がバハムートの登場に驚愕している。
「このままでは我がアンデッド軍団が……」
「こんにちは」
「っ!?」
声をかけると、男が慌ててこちらを振り返った。
「何者だ? ……は? 人間の……赤子……?」
「うん、可愛い可愛い赤ちゃんだよ」
「人間の赤子が喋っているだと……っ?」
思わず後退るその男は、頭部に角を生やし、赤い目と青みのある肌をしている。
思った通り魔族のようだ。
そして今回のアンデッド騒ぎの元凶に間違いない。
見たところ、先日の個体よりもずっと高位の魔族だろう。
魔物を利用している点では似ているが、こちらは死霊術を使いこなし、アンデッドを完全な支配下に置いているようだ。
「あの大量のアンデッド、おじさんの仕業だね? それにこのナイトウォールと、監獄にいた犯罪者たちをアンデッドにしたのも」
「……だとしたらどうするつもりだ?」
「おじさんを倒そうかなって。そうしないと永遠とアンデッドが生まれ続けるだろうし」
魔族のすぐ近くには、禍々しい黒い渦が存在していた。
どうやらそれがアンデッドの供給源らしく、そこから今も続々と新たなゾンビやスケルトンが生み出されては街へと向かっていく。
「なかなか高度な死霊術だね。冥府に直接繋がってるのかな?」
「……我がしもべたちよ、やれ」
魔族が命じると、アンデッドたちが一斉に俺の方へと襲いかかってきた。
「ファイアボール」
「「「~~~~~~ッ!?」」」
初級の火魔法で、ゾンビもスケルトンもリビングアーマーも、まとめて一掃する。
「スケルトンやリビングアーマーを火魔法一撃で……」
魔族が驚く。
ゾンビは炎に弱いが、スケルトンやリビングアーマーはその限りではないからな。
「やはりただの赤子ではないか……だがこれならどうだ? 不死の騎士たちよ」
魔族の手から放たれた黒い靄が、馬に跨った騎士の姿を形作っていく。
やがて主君を護るように魔族を取り囲みながら、五体もの騎士が出現していた。
ただし彼らには首から上がない。
「デュラハンだね」
「……やれ」
突撃槍を手にしたデュラハンたちが、一斉に躍りかかってくる。
「可愛い赤子相手に容赦ないねー。ホーリーレイ」
「「「~~~~~~~~ッ!?」」」
浄化の光がデュラハンたちを焼いた。
光を浴びた場所からあっという間に身体が煙と化し、やがて馬と一緒に完全に消滅してしまうのだった。
「せ、聖属性の魔法まで使えるだと……っ?」
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