第111話 他に人がいたら邪魔だからね

「アンチカース」


 ギルド長が受けていた呪いを解く。


「エクストラヒール」


 それから治癒魔法で傷を癒した。


「これでよし、と」

「ほ、ほんとに治ったわ……相変わらず君がいたら何でもどうにかなっちゃうわねー」


 さすがに何でもどうにかできるわけではない。

 まだまだ肉体的にも魔力的にも前世の水準には程遠く、使えない魔法も多いからな。


 幸いエクストラヒールくらいなら、杖の補助なしでも使えるようにはなったが。


「詳しい状況はギルド長が目を覚ましてから聞くとしよう。……しかし、それにしても解せないな。あれから何の動きもない。アンデッドが占領しているとは思えないくらい、静かなものだ」


 ゲインが冒険者ギルドの方を睨む。


「アンデッドだから昼間は休んでるんじゃないの?」

「ん。それなら今のうちに乗り込む?」


 確かにアンデッドは太陽光に弱い。

 そのため昼間の活動が鈍る傾向にあった。


 高位のアンデッドはその限りではないが。


 そんなことを考えていると。

 急に窓の外が暗くなった。


「な、何だ? いきなり暗くなった……?」

「うそ……っ!? 太陽が……消えていく……っ!?」


 時刻は正午前。

 最も高い位置に昇ろうかというところだった太陽が、まるで闇に呑み込まれるようにその姿を隠していく。


「これは……珍しいな。夜を生み出す魔法――ナイトウォールだ」


 時間が勝手に進んだわけでも、太陽が消滅したわけでもない。

 太陽を闇で覆い隠すことによって、一時的な夜を作り出す魔法だ。


 結構な魔力が必要な、高位の闇魔法である。

 誰が使ったのかは分からないが、これでアンデッドが活発に動ける環境へと変わったことになるだろう。


「奴らの仕業か……っ!」

「……動きがありそうねー」


 だがしばらくしてもたらされた報告は、冒険者ギルドの方からではなかった。


「た、大変だ! 街の外から……アンデッドの大群が攻めてきている……っ!」

「何だって!?」

「街の外っ? ギルドの方じゃなくてーっ?」


 その報告だけでは状況がいまいちよく分からないので、俺は窓から飛び出して、飛行魔法で空から様子を確認することにした。


「おー、なかなかの数だね」


 空から都市の外を見渡すと、北の森の方から軽く一万を超すだろうアンデッドの群れが、こちらに向かって進軍してきているのが見えた。

 街から逃げ出そうとしていた人々が、慌てて引き返している。


 俺は建物へと引き返した。


「一万以上はいたね。ゾンビとかスケルトンとか、あとリビングアーマーとか」

「い、一万だと!?」

「ちょっ、こんなときに冗談はやめてよねー、レウスくん?」

「冗談じゃないよ?」

「え……じゃあ、ヤバいじゃん……」


 エミリーが絶句したそのとき、冒険者ギルドの方でも動きがあった。

 建物から続々とアンデッド化した犯罪者たちが出てきたのだ。


「内と外からアンデッドの群れというわけね……」

「師匠、どうする?」


 恐らく都市内のアンデッドは数が少ないものの強力で、外から迫ってきているアンデッドは強さこそさほどではないがとにかく数が多い。


「戦力を二手に分けるしかないだろうが……」

「そ、そんな戦力ないでしょっ?」


 慌てるゲインとエミリー。

 少し迷ってから、俺は提案した。


「うーん……それじゃあ、外のアンデッドは僕に任せてよ」


 こうなったら多少は目立ってしまうのも仕方がない。

 さすがにあの数のアンデッドが都市内に突入してきたら、大量の死人が出るだろうからな。


「師匠一人で?」

「うん。だからこっちはお姉ちゃんたちに任せるよ」

「大丈夫なの? って、あんたには愚問ね」


 そんなわけで、外から押し寄せてくるアンデッドの群れを殲滅すべく、俺は単身で建物から飛び出す。

 と同時に保管庫からバハムートを取り出して、


「他に人がいたら邪魔だからね」

『マスタああああああっ! だいしゅきいいいいいっ!』

「ぽいっと」

『ほえ?』


 迫りくるアンデッドの群れを目がけて、全力で投擲してやった。


「後は頼んだよ、バハムート! 元の姿で暴れ回っちゃって!」


 他に人がいたら巻き込まれて確実に死ぬだろうからな。

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