第110話 まず呪いを解除すればいいんだ
「レウス! よかった、ここにいたのか!」
「ゲインおじちゃん? どうしたの? そんなに慌てて」
スラム街にあるゼタの鍛冶工房。
そこで約束した通り鍛冶知識を彼女に教えていると、Aランク冒険者のゲインが駆け込んできた。
「冒険者ギルドが大変なんだ! それにギルド長も!」
「ええと?」
「説明している時間も惜しい! すぐに一緒に来てくれ! もちろんファナに、アンジェ! 君たちもだ!」
血相を変えたゲインに促され、ゼタへの指導は一時中断し、俺たちは急いでギルドへと向かう。
スラム街にいると分からなかったが、街の中心部に近づくほど大きな騒ぎになっていた。
荷物を背負った大勢の人々が、どうやらこの街から逃げ出そうとしているらしく、それで大渋滞が発生していたのだ。
これではまともに道を進めないので、家屋の上を跳躍していくことに。
家から家へと飛び移りながら、ゲインが状況を教えてくれた。
「ギルド内に突然、アンデッドの集団が?」
「ああ。真夜中のことで、俺も聞いただけだから詳しいことまでは分からない。だが、監獄に収監されていた犯罪者たちが、アンデッド化したとの情報もある」
ギルドの広い敷地内には、大きな監獄施設も存在していた。
そこには昨晩の時点で、百人を超える犯罪者たちが捕らえられていたとか。
「そのときギルド内にいた冒険者や職員たちが、奴らの餌食になり、そればかりかアンデッドにされてしまったという」
「アンデッドがアンデッドを増やしていく……想像しただけでヤバい状況じゃないの……」
アンジェが顔を青くしているが、死者をアンデッド化するのは、高位のアンデッドにしか不可能な芸当だ。
犯罪者たちがアンデッド化した話と合わせて考えると、強力なアンデッドが関わっていることは間違いない。
「あそこだ」
冒険者ギルドが近づいてきたところで、ゲインはそちらには向かわず、少し離れた場所にある大きな建物の方へ。
何度か前を通ったことがあるのだが、確か色んな商品を扱っている総合商店だったか。
その敷地内へと入ると、冒険者たちが武器を構えて入り口を守護していた。
どうやらギルドから逃げた冒険者や職員たちが、この建物を一時的に拠点として利用しているらしい。
建物の中へと駆け込み、やってきたのは本来なら商品が展示されているスペースだ。
そこにアンデッドにやられたのだろう、負傷した者たちが寝かされていた。
治癒士たちが負傷者の傷を治している。
そんな中、大きな声で叫んだのはAランク冒険者のエミリーだ。
「やっぱりダメなんだけどーっ! 治癒魔法が全然効かないなんて……っ!」
頭を抱えて叫んでいるところへ、俺たちが辿り着く。
「エミリー、レウスを連れてきたぞ!」
「えーと、どうしたの? って、これは……」
エミリーが治療を試みていたのは、この街のトップであるギルド長だった。
恐らく内臓まで届いているであろう深い傷が、その胸を縦断している。
「……昨晩、ギルド長もギルド内にいて……アンデッドと戦ったらしい」
顔を歪めながら告げるゲイン。
なるほど。
高位のアンデッドから受けた傷というのは、呪い状態になって、普通の治癒魔法やポーションが効かなかったりするからな。
そこへ横から一人の青年が割り込んできた。
「俺が助けに入ったときには、すでにこうなっていたんだ」
どこかで見たことがある。
確か、リベリオンの拠点に攻め込むときに一緒にいたAランク冒険者の一人だ。
「元Sランクのギルド長がこんな傷を負うなんて……どんなアンデッドがいたのよ?」
アンジェの疑問に、その青年が答える。
「……ゼブラだ」
「ゼブラって……あの?」
「ああ。間違いない。ギルド長の近くに倒れていた。だが……ただのゼブラではなかった。明らかにアンデッド化していた。なにせ、首が外れかかっているにもかかわらず、笑いながら喋っていやがったからな」
ゼブラは死刑判決を受け、後は刑の執行を待つ状態だった。
そのため監獄に捕えられていたはずだが……アンデッドと化し、そして因縁の相手でもあるギルド長に襲いかかったのだろう。
「ねぇ、レウスくん、君なら何とかできる……?」
「うん、こういうときね、まず呪いを解除すればいいんだ。アンチカース」
俺はひとまずギルド長を蝕む呪いを解くことにした。
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