第108話 アタシの自信も粉々だ

 翌日、二本目の剣を作った。

 一本作るのにかなりの魔力を消耗したから、次の日にさせてもらったのだ。


「凄い。今ならレッドドラゴン倒せそう」


 ファナは二本の剣を手にして珍しく興奮している。


「な、なんだかあんただけズルいわ!」

「? アンジェは徒手空拳。武器が要らない」

「そう言われたらそうなんだけど……」


 腑に落ちない顔をしているアンジェに、俺は言った。


「アンジェお姉ちゃんの武器も作ってあげよっか」

「ほ、本当!?」

「うん。バトルグローブはどう? それなら今までと戦い方も変わらないでしょ」


 そんなわけで、腕に装着する戦闘用手袋を作ることとなった。


 ガントレットでも良かったのだが、元は素手で戦っているアンジェには、手首や指の可動域をあまり狭めないバトルグローブの方が使いやすいだろう。


 まず、耐久性と柔軟性を兼ね備えたアトラスの革をメインとして使用する。

 中でも最も上質な足の裏の革にしよう。


 これでグローブを作成すると、そこにファナの剣と同じアダマンタイトを混合させたミスリルによって、手の甲や手首の部分などを補強していった。


「最後に剣と同じ魔法付与を施して、と。……うん完成」

「す、凄いわ……これなら何でも破壊できそうな気がする……」

「試しに殴ってみる?」


 俺はゼタが打ったもう一本のミスリルの剣を差し出す。


「ちょっ、またアタシの剣っ……」

「はあああっ!」


 バキイイインッ!


 アンジェの拳を受けて、あっさりと刀身が粉砕された。


「……アタシの自信も粉々だ……」

「まぁ、そう気を落とさないでよ。約束通り僕が教えてあげるからさ」

「師匠おおおおおおっ!」


 ゼタが涙目で俺を抱き締めてくる。

 思った通り、なかなか良い胸をしてるぜ。


 俺の弟子になれるなら何でもするということだったので、鍛冶を教えてあげることにしたのだ。

 俺が使っていたような便利な魔法は、魔法の才能がないと難しいが、製法なら教示すれば再現できるだろう。


「あー、ちょっと汗かいちゃったかなー。ゼタお姉ちゃん、僕、お風呂に入りたいよ」

「すぐに沸かすから待っててくれ!」

「お姉ちゃんに入れてもらいたいなー。ほら、僕、見ての通り小さくて湯船で足がつかないからさー」

「もちろんそれくらいお安い御用だ、師匠!」


 ぐふふ、たっぷり堪能させてもらうとしよう。


「……エロガキ」

「何のことかな、アンジェお姉ちゃん?」




    ◇ ◇ ◇




「こ、こんなことで本当に強くなれるのか……?」


 ブレイゼル家出身の冒険者クリスは大いに当惑していた。

 小柄だがやけに胸が大きい少女が、にっこりと微笑む。


「もちろんです! この治療を受ければ、皆さん必ず強くなれます!」


 なんだか物凄く胡散臭い言葉だ……と思いつつも、クリスは少女に促されて、ベッドの上に寝転んだ。

 さすがに下着は身に付けたままだが、こんな姿で無防備な姿を晒すことに、不安と羞恥が押し寄せてくる。


 だがこの怪しげな治療が劇的な効果をもたらすと評判で、こうして実際に治療を受けるまで一か月も待たなければならなかった。

 この街のどんな冒険者に話を聞いても、絶対に受けた方がいいと言われたほどだ。


 さらに驚くべきなのは、この治療を生み出したのは目の前の少女ではなく、噂の赤子だということだった。


「そのレウス、という赤子が編み出したと聞いているが……」

「あー、えっと……実はそれ、できれば秘密にしておいてほしいんですけど……でも、すでに知っているなら構わないですよね。……そうなんです。あたしは師匠に教わって、それでこうして治療ができるようになったんです」

「一体全体、何者なのだ、その赤子は……?」

「何者と言われるとあたしも困りますけど……突然この街にやってきて、信じられないことを次々とやってのけて、そのまま気づいたらいなくなってました」


 ますます訳の分からない赤子だ。


「それより、治療を始めますねー。リラックスしててくださいー」


 そう言って、少女がゆっくりとクリスの肌に手を這わせた。

 その瞬間、得も言われぬ快感が彼女を襲ったのだった。


「ん~~~~~~っ!?」

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