第107話 何か斬ってみたい

 ギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルッ!!


 さすがにアダマンタイトを粉末状にするのは骨が折れるな。

 小さな塊を砕くだけで、凄まじい魔力が必要だ。


「ふう、こんなところかな」


 黒く光る粉末になったそれを器に落としながら、一息つく。


「じゃあここからミスリルにそれぞれの粉末を混ぜていくね」


 すべての粉末をまとめてミスリルに混ぜてはいけない。

 各々別々に混ぜて、三種類のミスリル混合物を作り上げるのだ。


「まずはミスリルにアトラスの骨を」


 アトラスの骨の粉末が入った器の上に、ミスリルの塊を浮かべる。


「えい」


 粉末があっという間にミスリルへと吸い上げられていった。


「な、何だ今のは!?」

「物質混合魔法だけど?」

「物質混合魔法、だと……?」

「うん。二つの物質を混ぜ合わせる鍛冶専用魔法だね。知らないの? 均一に混ざるし、便利だよ」


 続いてレッドドラゴンの鱗の粉末とミスリルを混ぜ合わせる。

 最後はアダマンタイトとミスリルだ。


「よし、後はこの三種類のミスリル混合物を剣にしていくね」


 最も柔らかいアトラスの骨との混合物を、それより頑丈なレッドドラゴンの鱗との混合物で挟み込み、さらに最も硬いアダマンタイトとミスリルの混合物を両刃部分にする。


 こんな風に場所によって硬さを変えることで、折れにくさと切断力の両方を高めることができるのだ。


「な、何だ、その製法は……? 見たことも聞いたこともねぇぞ……」


 驚嘆しているゼタを余所に、軽く魔法で熱を加えて接着させる。

 続いてこれを刀身の形にしていく。


 本来なら熱を加えながら金槌で叩き、少しずつ引き伸ばしていくという、非常に地道な作業になるが、ここも魔法でやってしまう。


 赤熱した刀身がゆっくりと伸びていき、それらしい形へと変化していった。


「炉すら使わねぇなんて、一体どうなってやがる!?」

「刀身形成魔法だよ。この方が金槌で叩くよりも均一になるんだ」

「刀身形成魔法!? 何でもありにも程があるだろ!?」


 やがて美しい刀身ができあがった。

 アダマンタイトやレッドドラゴンの鱗が混ざっているため、薄っすらと黒や赤が入っているが、見事なミスリルの輝きを放つ剣の完成だ。


「凄い。こんな剣、初めて見た」

「……見てるだけで刀身に吸い寄せられそうだわ」

「そして最後に付与魔法を施して、と」


 高い魔力親和性を持つミスリルには、複数の付与魔法をかけることが可能だ。


「攻撃力増大、敏捷増大、回避力増大、クリティカル率増大、体力自動回復、自然治癒――」

「ちょ、ちょっと待て!? どんだけ付与してんだよ!? ていうか、付与魔法まで使えんのか!?」


 途中でゼタが割り込んできたが、無視して続ける。


「――各種耐性、衝撃反射。……これで限度かな」


 武具に施す魔法付与は、あくまで補助的なものだ。

 そこまで劇的にステータスを上げられるわけではないが、まぁあるに越したことはない。


「はい、ファナお姉ちゃん」

「……凄い」


 剣に魅入られるように息を呑むファナ。


「何か斬ってみたい」

「これはどう?」


 俺が見つけたのは、ゼタが作った方のミスリルの剣だ。


「ちょっ、それアタシが……」

「アンジェお姉ちゃん、これを持って」

「こうでいいのかしら?」


 アンジェがその剣を適当に構える。

 俺が作ったミスリルの剣で、ファナが斬撃を放った。


「ん。はっ」


 ピキィンッ!


 切断された刀身が、くるくると宙を舞って天井にぐさりと突き刺さった。

 もちろん真っ二つのなったのはゼタ製のミスリルの剣で、俺の作ったやつは刃毀れ一つしていない。


「アタシが丹精込めて打った剣があああああああああっ!?」

「全然違う」


 ゼタはがっくりと項垂れた。


「は、ははは……どうやらアタシは、完全に井の中の蛙だったみてぇだな……」


 それから急に吹っ切れたように顔を上げる。

 そして何を思ったか、いきなり俺に向かって土下座してきた。


「師匠おおおおおっ! どうかアタシを、アンタの弟子にしてくれええええっ!」

「うーん……」


 土下座したことでちらりと見えた胸の谷間を眺めつつ、俺は言った。


「抱っこしてくれたらいいよ(にっこり)」

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