第106話 僕が作るよ

「(ファナお姉ちゃん、みんなで採ってきたことにしてね)」

「ん。みんなで採ってきた」

「ろ、六十階層に、たった二人で!?」

「違う。師匠も一緒」

「師匠って……ただの赤ん坊じゃねぇか!」

「あうあー」


 俺はただの赤子アピールをしておく。


「俄かには信じられねぇが……とにかく、こいつで剣を打てってわけだな。はっ、久しぶりに腕が鳴るぜ」


 不敵に笑うゼタ。

 どうやら本気になってくれたようだ。


「二本必要」

「なるほど、二刀流か。ああ、構わねぇよ。ミスリルの剣を二本、アタシが最高のもんを用意してやるぜ」






 それから数日後。

 約束の期日となったので、俺たちはゼタのところにできあがったミスリルの剣を受け取りに行った。


「どうだ、見ろ。アタシの人生の中でも、間違いなく最高の二振りだ」

「ん、凄い」


 ゼタが力強く豪語しながら、完成したミスリルの剣を手渡してきた。

 手に取ったファナが、マジマジと輝きを放つその刀身に見入る。


 ファナに抱かれていた俺は、手を伸ばしてそのうちの一本を貸してもらう。


「おいおい、赤子に持たしたら危ねぇだろ」


 と注意してくるゼタを余所に、俺は拳に魔力を集束させると、そのまま刀身に拳を叩きつけた。


 バギンッ!!


「……は?」


 さすがに折れるところまではいかなかったが、刀身に無数の罅が入ってしまう。


「あ、あ、あ、アタシの傑作があああああああっ!?」


 頭を抱えてゼタが絶叫する。


「師匠?」

「ちょっ、何やってんのよ!?」

「んー、やっぱりね。この剣、全然ダメだよ。軽く殴ったくらいでこんなに簡単に亀裂が入るようじゃ、せいぜい二級品以下だね。この程度なら低純度のミスリルで十分だったよ」


 せっかく高純度のミスリルで作ったのに、勿体なかったな。


 辛辣な評価を受けて、ゼタが激昂する。


「て、てめぇっ! アタシの剣をよくもっ……って、赤ん坊が喋りやがった!? いやそんなことより、アタシの最高傑作をっ……いや待てっ、拳で罅を入れやがっただと!? もはや何が何だか訳わからねぇ!?」


 一度に色々あり過ぎて、パニック状態になってしまったみたいだ。

 頭を抱えて叫ぶ彼女に、俺は言った。


「ゼタお姉ちゃん、この剣、ミスリルだけで作っちゃったでしょ? 不純物の多い低純度のミスリルと違って、高純度のミスリルを素材にするときには、色々と混ぜ物が必要なんだ。ほら、鉄だって炭素を混ぜると強くなるでしょ」


 まぁ高純度のミスリルを扱って剣を打ったことなんてなかったみたいだし、仕方ないか。


「ちょっと、何でそんなに詳しいのよ?」

「……ばぶー?」

「だから都合の悪いときだけ赤子のフリするなってば!」


 前世の頃、趣味で色んな武器を作ったりしてたからなー。


「仕方ない。僕が作るよ」

「師匠が?」

「そんなことまでできるっての……?」

「まぁ見ててよ」


 俺はこんなこともあろうかと、密かに製錬と精錬を終えておいたミスリルを亜空間から取り出す。


「えーと、混ぜ物には……レッドドラゴンの鱗とアトラスの骨がいいかな」

「レッドドラゴンの鱗にアトラスの骨だと!? 何でそんな貴重な素材、当然のように持ってやがる!? ってか、今どっから取り出した!?」

「どっちも粉末状に砕いて……と」


 ギュウウウウウウンッ!!


「よしよし、こんな感じかな」

「い、今どうやった!?」

「え? 魔力で粉々にしただけだけど?」


 粉末になったそれを見ながら、俺はあることを思いつく。


「それから……うん、どうせだからこれも使っちゃおう」


 黒光りする金属塊を手にする。


「そ、そいつはまさか……っ!」


 わなわなと唇を震わせてから、ゼタが叫ぶ。


「あ、あ、あ、アダマンタイトじゃねぇかああああっ!?」

「そうだよ。ミスリル採るときにたまたま見つけたんだ」


 アダマンタイトは世界で最も硬いと言われている金属の一つだ。

 ミスリルと違い、最初から不純物が混ざったりはせず、純度百%の金属として産出される。


 さすがにあまり量は採れなかったが、混ぜ物としては十分だろう。

 これで強度を格段に上げることができるはずだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る