第92話 領主に等しい

 その後は何事もなく、冒険者ギルドへと戻ってきた。


「しょ、少々お待ちくださいっ!」


 ゲインから報告を受けた受付嬢が、慌てて奥へと走っていく。

 しばらくして戻ってくると、応接室らしい場所へと案内された。


 そこで待っていたのは、数人の男女。

 その中の初老の男が、俺たちが入ってきたのを見るや口を開いた。


「報告は聞いた。なかなか大変だったようだな」

「はい、ギルド長」


 どうやら彼がこの冒険者ギルドのトップらしい。


「ギルド長……この都市は冒険者ギルドが治めているってことは……」

「ん。領主に等しい」


 アンジェとファナが、ひそひそと言葉を交わす。


「なるほど……小柄だけど、凄い存在感ね……。さすが、ドルジェとは違うわ」

「違うのは当然。ここのギルド長は、元Sランク冒険者」


 ボランテでギルド長をしていたドルジェと比べるとかなり小柄で、ファナと大差ないくらいの体格だ。

 だが実力は桁違いだろう。


 転生してから遭遇した人間の中では、たぶん断トツの強さだな。

 次いで、その隣に控えている青年か。


 青年といっても、恐らくハーフエルフのようなので、実年齢はもっと上だろう。

 彼もまたなかなかの実力者のようである。


 そんなことを考えていたら、その青年がファナに抱えられた俺の方を見て、眉根を寄せた。

 なぜ赤子が……という顔をしているので、「あうあー」と赤子らしく振舞っておく。


「で、捕まえたのはそいつか。モルデア、頼む」

「お任せください」


 どうやらそのハーフエルフの青年はモルデアという名前らしい。

 エミリーが横からこっそり「副ギルド長だよー」と教えてくれた。


 捕えた男へ近づいていくと、モルデアが魔法を使う。

 一体何をするつもりだと身体を強張らせていた男が、急に魂が抜けたようにとろりとした目になる。


 なるほど、自白魔法だな。


 モルデアが問う。


「さて、質問に答えていただきましょう。あなたの名前と年齢は?」

「俺の……名前は……ディル……三十一歳……」


 虚ろな目をしたまま、男は問われるがまま答えた。


「ディル、三十一歳ですね。では職業は?」

「元……冒険者……」

「元冒険者ですか。ちなみにランクは?」

「Bランク……」


 自白の内容が正しければ、この男は元々冒険者だったらしい。


「なぜ冒険者をやめたのでしょう?」

「依頼主と……揉めて……半殺しに、してしまった……それで……追放、された……」


 穏やかではない理由だな。

 ただ、冒険者というのは血気盛んな連中ばかりだし、前世だと依頼主を半殺しにするくらいなら割と罰金とか降格くらいで許されていた気がする。


 話を聞きながら、モルデアは近くにいた職員らしき人物に目配せをしていた。

 恐らく過去の在籍者のデータを確認するためだろう、その職員が慌てて部屋を出ていく。


「そうでしたか。それでは……今は何をされているのでしょう?」


 モルデアが核心に迫るように問い詰めると、男はあっさりと白状した。


「今の俺は……反冒険者ギルド組織……〝リベリオン〟の、一員だ……」


 反冒険者ギルド組織〝リベリオン〟?


「っ……やはりか……」

「また奴らの仕業とは……」


 俺には何のことかさっぱり分からなかったが、この場にいた他の者たちの反応を見るに、どうやらあらかじめ推測はできていたらしい。


「何よ、その反冒険者ギルド組織とかっていうのは?」

「その名の通り、我々冒険者ギルドに対して、反逆の意を示している闇組織のことだ」


 アンジェの疑問に答えたのはゲインだ。


「ギルドに恨みを持つ元冒険者たちによって結成され、ギルドの活動を妨害するばかりか、これまでに何人もの現役の冒険者が奴らの犠牲になっている」


 なかなか過激な組織のようだな。

 今回の試験に乗じて、試験官に受験者をまとめて全滅させようとしたくらいだし、よほど強い恨みがあるのかもしれない。


「ギルドに恨み?」

「冒険者の聖地なんて呼ばれてはいるが、ほんの数年前まで、うちは荒れまくっていてな。犯罪者が当然のように在籍し、殺しなんて当たり前の酷い有様だったんだ」


 首を傾げるファナに、ギルド長が直々に説明してくれた。


「だが俺がギルド長になってからは、そうした連中を徹底的に排除し、その後も冒険者に相応しくないと判断した奴は容赦なく追放していった。お陰で随分とマシにはなったが……そのことを根に持つ連中も増えちまったってわけだ」


 そうした者たちが徒党を組んだのが、反冒険者ギルド組織〝リベリオン〟らしい。

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