第93話 目印を付けておいたんだ
「ギルド長が就任されてから、我が冒険者ギルドは、そしてこの街自体も、大いに変わりました。ただその一方で、追放された一部の元冒険者たちが結託し、妨害と呼ぶには生易しいような活動を続けているのです」
副ギルド長モルデアが溜息混じりに教えてくれる。
「今まで奴らの襲撃に遭い、死亡、あるいは再起不能になってしまった冒険者は数知れません。もちろん我々も黙ってやられているだけではありません。奴らを壊滅させるべく、色々と対抗手段を講じてまいりました。ただ……」
「ゲリラ的な、しかもやけに慎重に動いてやがるせいで、手をこまねいていたんだ。連中の拠点がどこにあるのかさえも掴めていない有様でな」
ギルド長が苦々しい顔で続けた。
「そんなところに今回の一件ってわけだ。こうして連中の構成員を捕まえることができたのも初めてだぜ」
「ギルド長! 確認が取れました! 確かにデータベースに、ディルという元冒険者の記録がありました! その男の証言は間違いないかと!」
そこへ先ほどの職員が戻ってくる。
ギルド長が重々しく「……そうか」と頷く。
「ってことは、このまま自白を進めたら、そいつらの拠点が分かるかもしれないってことね!」
「ああ、その通りだ、アマゾネスの嬢ちゃん。……モルデア、頼むぞ」
「はい、ギルド長」
ごくり、と誰かが緊張で唾液を嚥下する音が聞こえる中、モルデアが男に訊いた。
「それで、あなた方リベリオンは、一体どこを拠点にしているのですか?」
「拠点は……ダンジョンの中、だ……」
「「「なっ!?」」」
返ってきた答えに、誰もが息を呑む。
「……なるほど、ダンジョンか。道理で街中を徹底的に捜索しても、奴らの拠点と思しき場所を特定することができなかったわけだ」
納得するように頷いたのはギルド長だ。
モルデアがさらに詳しく問い詰める。
「ダンジョンの何階層のどこに拠点があるのですか?」
「……それは……決まっていない……頻繁に、拠点を代えている……からだ……。恐らく……俺が捕まったことで……新たな場所に……移動している、はず……」
「えー、それじゃー、結局どこか分からないじゃんかー」
男の返答に、エミリーが残念そうに声を上げた。
それに首を振ったのはゲインである。
「いや、ダンジョンの中だと分かっただけで十分だ。しかし、だとすれば疑問も残るな。ギルド内に入り口があるこのダンジョンでは、冒険者以外が出入りするのは容易ではないはずだ。つまり……」
続きを言い淀むゲイン。
恐らく彼はこう言いたいのだろう。
冒険者ギルドの内部に、共犯者がいる、と。
「ともかく、今後は入り口を複数の冒険者と職員で固め、検問を行うしかないだろう。そうすれば連中も容易には動けなくなるはずだ」
今後の方針を告げるギルド長。
そこで俺は「はい」と手を上げ、皆の注目を集めてから言った。
「いつでも拠点を襲撃できるよ」
「なに? そいつはどういうことだ?」
「帰り際に襲ってきた連中に、こっそり目印を付けておいたんだ。どこに移動しても追跡できちゃうようにね」
「それは本当か? いや、その前に……」
ギルド長がまじまじと、ファナに抱えられた俺を見ながら訊く。
「……何で赤子が普通に喋ってやがるんだ?」
「最近の赤子は喋れるんだ」
「そんなわけあるか」
ゲインが代わりに説明してくれた。
「こう見えて、彼はBランク冒険者なのです。ただその実力はBランクどころではありません。強化されたレッドドラゴンを討伐できたのも、彼のお陰と言っても過言ではないでしょう」
「いやいや、お姉ちゃんたちのお陰だってば」
「と本人は言ってるけど、無視しちゃっていいよー」
「ちょっ、エミリーお姉ちゃん!?」
「まぁどう考えても無理があるわよね」
「ん」
ファナとアンジェまで!
あまり目立たないようにしたいと、二人にはあらかじめ伝えておいたはずなのに。
「もしかして、お前さんがボランテの街で大暴れしているっていう、あの赤子か」
どうやらギルド長は俺の噂を伝え聞いていたらしい。
「てっきりドルジェの奴が法螺を吹いてやがると思っていたが、本当だったわけか」
しかもボランテのギルド長は旧知の仲のようだ。
あれ、となると、今さら俺が実力を隠そうとしたところで、意味ないんじゃ……。
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