第63話 あいつを召喚するしか
「師匠には前世がある」
突然、何の前触れもなくファナが真実を口にしたので、俺の心臓が跳ねた。
ま、まさかバレたのか!?
「師匠は前世で凄い人だった。そのときの記憶が今も残ってる。だから凄い」
「確かに、それくらいじゃないと納得できないわね」
焦る俺に、アンジェが訊いてくる。
「前世があるとして、自分がどんな人間だったか覚えてないの?」
「ぼ、僕、分からないやー」
「ん。たぶん、曖昧な記憶」
……よかった。
どうやら人格そのままに転生したとまでは思ってないようだ。
あくまでも前世の記憶の一部が残ってるくらいだと思っているらしい。
よし、それでいこう。
「でも時々、見たことないはずの光景が頭に過ったりするんだ。もしかしてそれが前世で見たやつなのかも?」
「ん。きっとそう」
ふぅ、何とか誤魔化せたようだ。
俺はホッと胸を撫で下ろすのだった。
俺の朝は早い。
というのも、少しでも早く前世の力を取り戻すため、毎日欠かさずトレーニングを行っているからだ。
飛行魔法で街の外に出ると、まずは魔力量を高めるため、魔力を体内から一気に放出する。
そのときの魔力圧にビビったのか、近くにいた魔物や動物が一斉に逃げていく中、そうして枯渇した魔力を即座に回復させるため、俺は亜空間から淡く発光する石を取り出した。
これは魔石といって、魔力の豊富な場所で採ることが可能な特殊な石だ。
魔道具などのエネルギー源としても活用できる便利なものだが、魔物の体内にも作られる。
亜空間の容量上、魔物素材を回収できなかったとしても、この魔石だけは取り出して大量に保管しておいたのである。
「マナドレイン」
その魔石に蓄えられた魔力を、魔力吸収魔法を使って自分のものとする。
俺のマナドレインは周辺の空間からも魔力を集めることが可能なのだが、この方が何倍も早く魔力を回復させられるのだ。
まぁ回復速度としてはマナポーションを飲む方が早いのだが、あれは副作用があるからな。
マナポーションを飲むのは緊急時のみにして、こういうときは魔石を利用することにしているのだった。
幸い魔石の在庫はかなりある。
そうして魔力量を上げる訓練をした後は、小さな身体でランニングだ。
生まれて数か月のこの身体で最も困るのが、素のステータスの低さである。
幾ら魔法で強化したところで、素の肉体が弱ければたかが知れている。
前世の頃の俺なら、魔法を一切使わなくても、そこらのドラゴンくらい寄せ付けなかったんだがな。
この身体ではまだせいぜいオークと互角にやり合える程度だろう。
走りながら剣も振るう。
リントヴルムが休眠中なので、その辺で買った市販の剣だ。
……性能は量産品にしても少々低い気がするが、無いよりはマシだろう。
俺は魔法使いであるが、ある程度は剣も使える。
前世で剣神と謳われた男から直々に習ったことがあるほどだ。
小さな赤子の身体なので、まだロクに当時の技を使えないが、それでもそこらの剣士に負けないだろう。
一応、幾つか試してみるか。
「縮地」
数メートルの距離を一気に詰める。
これは剣神が頻繁に使っていた技の一つで、一瞬だけ超加速することで、まるで瞬間移動したかのように見せる高度な技術だ。
「……やはりダメだな。今の縮地は不完全だ」
しかしこの身体で再現するのはまだ早かったようで、完璧には程遠い出来だった。
さらに俺は、剣神直伝の剣技を色々と繰り出してみる。
「双刃斬! 飛刃斬! 竜殺斬!」
うーむ。
やはりどの技も前世のようには上手くいかないな。
「まぁ、地道に再習得していくしかないか」
とはいえ、今の俺にこの低品質の剣では心許ない。
そこらの魔物に後れを取るようなことはないが、先日のようにまた魔族と遭遇しないとも限らないだろう。
リントヴルムはまだ眠ったままだし……。
「となると、後はあいつを召喚するしか……。いやしかし、あいつはできるだけ避けたい……」
あいつ、というのは、俺が前世で使っていたもう一本の杖のことだ。
性能だけで言えば、リントヴルムにも匹敵するのだが、少々クセが強いやつので、可能なら呼び出すのは遠慮したいところだった。
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