第62話 人間性まで素晴らしい

 消費された魔力が回復していくときに、魔力総量は増えていくものだ。

 だが必ずしも魔力の自然回復を待つ必要はない。


「つまり、無理やり魔力を回復させたって、同じように魔力総量が増えていくってこと。例えばこれ」


 俺はそう言って、亜空間に保管してあるマナポーションを一本取り出した。


「マナポーションを飲んで、魔力を一気に回復させても魔力総量は増えてくれるんだ」

「なるほど、それなら魔力を使い切るたびに、マナポーションですぐに回復させていけば、手っ取り早く魔力の総量を増やせて……って、マナポーションはかなり高価なのよ!? そんな手軽に使えるわけないでしょ! 水じゃないんだから!」


 アンジェがノリツッコミっぽく声を荒らげる。


「僕は百本くらい持ってるけどね」

「ひゃっ!?」

「まぁでも、マナポーションは副作用もあるし、あまりおススメはできないかな」


 俺が作ったマナポーションなら効果も高く、しかも副作用の心配もないのだが。

 生憎と素材集めが少々面倒なので、まだ作ることはできていない。


 なので俺は魔力総量を増やすために、マナドレインという魔力吸収魔法を常時使用している。

 本来は魔法を使う相手に対して使用するものだが、改良して周辺の空間からも魔力を集められるようにしていた。


「マナドレインが使えたらいいんだけど、結構難しい魔法だからね。習得するのに少し時間がかかっちゃう」

「じゃあ結局、自然に回復するのを待つしかないってことね……」

「そうでもないよ。ファナお姉ちゃん」


 俺は軽くジャンプして、ファナの胸に飛びついた。


「……?」

「ほら、魔力が身体に流れ込んできてるの分かるでしょ?」

「っ! 分かる。これは?」

「僕の魔力を流し込んでるんだ」


 魔力の受け渡し。

 言葉にすると凄く簡単に聞こえるが、意外とこれには高度な技術が必要だ。


 というのも、本来、魔力というのは人によって少しずつ性質が異なっていて、そのまま流し込むと拒絶反応が起こってしまうのである。

 だから受け渡しの際に、相手の魔力と同質のものへと変換させなければならないのだ。


「凄い。あっという間に魔力が満ちてきた。でも、師匠の魔力は大丈夫?」

「心配ないよ。僕の魔力総量はお姉ちゃんたちの三十倍くらいあるから」

「さ……三十倍っ!?」

「さすが師匠」


 前世の頃と比べると微々たるものだが、それでも転生直後と比べれば随分と増えてきた。

 二人の魔力を満タンにするくらい大したことではない。


「じゃあ、次はアンジェお姉ちゃんだね」

「ちょっ、別に胸じゃなくてもいいでしょ!?」

「ダメだよ。心臓に近い場所の方が変換効率がいいんだ」

「っ……し、仕方ないわね!」


 まぁ嘘だけどな!

 本当は身体のどこかに触れてさえいれば問題ない。


 俺はアンジェの胸へと張りつく。

 うむ、相変わらず素晴らしいボリュームの胸だ。


 そうして二人の魔力を回復させたところで、


「とまぁ、こんな感じで、僕がいたらこんなに簡単に魔力を回復させることができるんだ」


 二人の魔力が枯渇する度に、俺が魔力を受け渡して全回復させていけば、手っ取り早く彼女たちの魔力総量が増えていくはずだった。


「凄い。さすが師匠」

「……で、でも、いいの? すでにここまでしてもらっておいて、今さらこんなことを言うのもだけど……あんたには何のメリットもないわよね?」


 ファナが褒め称え、アンジェが恐る恐る訊いてくる。


「気にしなくていいよ。僕はただ、強くなりたいっていう、お姉ちゃんたちの気持ちに応えたいだけなんだ」


 その代わり胸を堪能させてもらうさ……ぐへへへ……。


「師匠は人間性まで素晴らしい」

「ていうか、今の完全に赤子の台詞じゃないわよね……。あたしには中身が年上にしか思えないんだけど……」

「ん。分かった」


 何かを思いついたのか、ファナが急にぽんと手を叩く。


「師匠には前世がある」


 ファッ!?

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