第58話 返事してよ

「……みんな、大丈夫?」


 声をかけてみても、ただ虚ろな目をこちらに向けてくるだけ。

 うん、ダメだ、こりゃ。


「おーい、返事してよー」

「「「はっ!?」」」


 あっ、ようやく我に返ったみたい。


「ちょっ、さっきのは何だったんだい!? あのとんでもない古竜は!?」

「あれは僕がいつも使ってる杖だね」

「なんで杖がドラゴンになっちまうんだよ!?」

「んー、まぁ、そういう杖だからとしか?」

「何であんたがそんなもの持ってるのよ!?」


 質問攻めである。

 そんなにいっぺんに訊かれても困るんだけど。


「さすがレウス。すごい」


 ファナだけはただ尊敬の眼差しを送ってくる。


「いや、さすがとかそういう次元じゃねぇだろうが……まぁ、もはや今さらと言えば今さらだけどよ……」


 呆れたように溜息を吐くのはマリシアだ。


「ともかく、コイツがいてくれたお陰で助かったのは事実だ。アタシらだけだったら、あの魔族の第一形態にすら敵わなかっただろうよ。ついでに言えば、今頃はあのオーガの大群がダンジョンから出て、国がめちゃくちゃになっちまったかもしれねぇ」

「そう考えるとゾッとするな……。こりゃ、ギルドに追加料金を請求しねぇと割に合わねぇぞ」

「それはそうと、そのオーガの大群はどうなったのかしら?」


 あれだけいたオーガの大群だが、あちこちに死体が転がっているだけで、見渡す限り生き残っている個体は見当たらなかった。

 狼かーちゃんたちの姿も見えないが、もっとダンジョンの奥まで行って殲滅を続けているのかもしれない。


 そんなことを考えていると、大きな影が暗がりから巨体が姿を現した。

 かーちゃんだ。

 子狼たちも一緒である。


『片づけてくれたの?』

『ああ。オーガだけじゃなく、ついでにそれらしい魔物も全部始末しておいたよ』

『おおっ、仕事ができる』


 どうやらあの魔族が魔改造した魔物を、残らず殲滅してくれたらしい。


「お前たちも助かったよ」

「「「わうわうわうわうわうっ!」」」


 褒めてやると嬉しそうに尻尾を振り回す子狼たち。


『それじゃあ、そろそろあたしらを森に戻してくれるかい。縄張りの主として、あまり長く開けているわけにはいかないからね』

『うん。今日はありがとね、かーちゃん』

『……』


 そうして俺がかーちゃんたちを送り返そうとしたときだった。


『そうだ。今思い出したんだけれど、お前が森を去って少ししてから、森の近くで人間の集団を見かけたよ』

『人間の集団?』

『何をしにきた誰なのかは知らないが、お前に似た匂いの奴らがいたから、殺さないでおいてあげたよ』


 俺に似た匂い?

 うーん、一体誰だろう?


『それと……遊びに来たければ、いつでも来な。こいつらもお前と遊びたいみたいだしね』

「「「わうわうわうわうっ!」」」


 そうして狼かーちゃんたちは帰っていった。


「さっきのドラゴンのインパクトが凄すぎて感覚が狂っちゃってるけど……あの狼たちとは一体どういう関係なんだい……? 小さい方は危険度Aのナイトメアガルムのようだったけれど……」


 バダクが恐る恐る聞いてくる。


「生まれた直後に捨てられちゃって、それであの大きな狼に育ててもらったんだ」

「……ツッコミどころが多過ぎて、もはやどこからツッコんでいいか分かんねぇんだが?」


 マリシアが遠い目をしながら言った。


 それからどこで生まれたのか、なぜ捨てられたのか、どうやって魔物に育てられたのか、など色々と聞かれてしまったが、俺は「うーん、分かんないやー」と赤子っぽく適当に誤魔化した。


 さすがに生まれた瞬間から、はっきりとした自我があったというのは変だからな。

 下手したら前世があることがバレかねない。


 ――マスター、すでに十分過ぎるほど変かと。


 あれ? なんか今、リントヴルムの声が聞こえたような聞こえなかったような。

 いやいや、休眠中だから聞こえるはずないな。


「まぁまぁ、あんまり人の過去を詮索するのはよくないと思うよ!」

「テメェの場合、過去ってほど過去じゃねぇだろ……」

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