第53話 なかなか考えたね
「き、貴様ぁ……っ! この私を、侮辱するかぁぁぁぁぁっ!」
俺の指摘に、魔族がブチ切れる。
侮辱もなにも、間違いなく事実だろう。
強力な魔族なら一体でも一国と争えるような力を持つが、下級魔族が一体で人間と戦おうとしたところで、すぐに討伐されて終わりだ。
そして目の前の魔族は明らかに下級。
前世の俺だったら一秒で仕留められる程度の相手でしかない。
ズウウウンッ!!
そのとき再び足元から大きな音が響いてくる。
どうやら二体目のマウンテンベアを倒したらしい。
「おい、あそこに何かいるぞ?」
「あれは……まさか、魔族かっ!?」
「レウスが戦ってる?」
そしてこちらに気づいたようだ。
魔族も俺に見つかった段階で隠蔽魔法を解いているしな。
「忌々しい下等生物どもめ……。くくく、だがどのみち貴様らはここで終わりだ……っ!」
いきなり笑い出したかと思うと、踵を返してダンジョンの奥へと飛んでいく魔族。
「に、逃げたのか?」
「間違いなくあの魔族こそがこの異変の元凶だろう! 追いかけるぞ!」
俺たちはその後を追って、さらにダンジョンの奥へ。
「っ! いたぞ! さっきの魔族だ!」
「気を付けろ! 魔族は強敵だぞ!」
すると先ほどの魔族の姿を発見する。
彼は逃げる様子もなく、ただこちらを待ち構えるように不敵な笑みを浮かべながらそこに立っていた。
「「「こ、これは……っ?」」」
近くまで来たところで、そこに広がっていた光景に息を呑む。
魔族が高らかに哄笑する。
「くはははははっ! ようこそ、下等生物の諸君! これぞ、私の最高傑作たちだ!」
腕を大きく広げながら勝ち誇るように魔族が示したのは、ダンジョン内を埋め尽くすかという無数の巨漢の鬼――オーガの大群だった。
「こ、これすべて、オーガなのか!? なんという数だ!?」
「馬鹿な……オーガは危険度Bの強力な魔物……それがこんなに……」
オーガはあまり繁殖力が高くない。
時に大繁殖してしまうオークより、遥かに増えにくい魔物だった。
だが目の前のオーガの大群は、先日のオークの大繁殖など可愛く見えるほどの凄まじい数だ。
「ま、まるでゴブリンの群れ……」
「くははっ! 人間にしては、なかなか鋭い奴もいるようだな! そう、これはただのオーガたちではない! ゴブリンの繁殖力を宿したオーガたちだ!」
「なっ……ゴブリンの繁殖力を持つオーガだと!?」
魔物の中で、最も繁殖力が高いとされているのが、最弱の魔物であるゴブリンだ。
奴らは十分な食糧があると、たった一週間で倍にも増えると言われている。
「お、おいおいおい、冗談じゃねぇぞ……? ゴブリンは単体だとせいぜい危険度Eの魔物だから、まだ増えてもどうにかなるが、オーガは危険度Bだぞ? そんなのが、ゴブリン並みに大繁殖しやがったら……」
顔を青くしながら、マリシアがこの状況の恐ろしさに声を震わせる。
一方、俺は感心したように頷いていた。
「なるほど、オーガにゴブリンの繁殖力ね。オーガとゴブリンじゃ体格が全然違うけど、同系統の魔物だ。だからゴブリンの繁殖力を持たせることができたんだろうね。他の魔物だったら、拒絶反応が起こって多分上手くいかないと思う。なかなか考えたね」
「レウス、賞賛してる場合?」
「くはははっ! その通りだっ!」
ちょっと呆れたように言うファナに対して、魔族が目を輝かせて叫んだ。
「まさにそれこそが、この改造オーガ誕生の肝……っ! 最初は他の魔物にその繁殖力を持たせようとしたのだが、なかなか上手くいかなかった! だが試行錯誤を繰り返した結果、ついに同系統のオーガならば可能だということを突き止めたのである! まさかそれに気づくとは……って、下等生物ごときに何を語っているのだ、私は……」
我に返ったのか、魔族は頭を抱えながら首を振る。
それから再び先ほどの不敵な顔に戻って、
「くくくっ、貴様ら下等生物どもなど、あっさりこいつらに喰いつくされるだろうなァ! すでに現段階で、二千体にまで増やしてある」
「に、二千だとっ!?」
「ダンジョン内で確保できる食糧を考えれば、この辺りの数で限界だが、間もなくこいつらが地上へと解き放たれる! 瞬く間に大繁殖し、近いうちに貴様ら下等生物どもを、この地上から駆逐し尽くしてくれることだろう!」
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