第52話 かなり下級みたいだね

「ねぇねぇ楽しそうだね? 何か良いことでもあったの? よかったら僕にも教えてよ」

「っ!?」


 俺が声をかけると、そいつは慌てた様子でこちらへ振り返った。


「に、人間の赤子だと!?」


 振り返って、さらに目を見開いて驚く。


「どうして姿を隠しているはずの私が分かった!? それに赤子が飛行魔法を使いこなしている!? いや、そもそもなぜ喋れる!?」

「質問が多いねー。まだ僕の質問には答えてくれてないのに。まぁ、大方予想は付くけどね。おにーさん、魔族だよね?」

「っ……」


 姿を隠蔽し、空に浮かんで俺たちのことを観察していたのは、一見すると人間の青年のような男だった。


 だが頭部には角が生え、目は赤く、肌は青みを帯びている。

 何よりその禍々しくも強い魔力が、魔族の最大の特徴だ。


「……貴様、ただの赤子ではないな?」

「ううん、普通の赤子だよ」

「そんな人間の赤子がいて堪るか! 魔族の子供ですら、言葉を操るようになるまでに一年はかかるのだぞ!」

「それより、さっきから出てくる変な魔物、おにーさんが作ったの?」

「……くくく、その通り。この私が長年かけて開発を進めてきた、魔物の融合技術によって生み出したのだ!」

「何のためそんなことを?」

「無論、人間どもを滅ぼすために決まっているだろう!」


 魔族は忌々しそうに顔を歪めると、怨嗟を吐き出すように教えてくれた。


「下等生物の分際で、我々魔族を絶滅寸前にまで追いやり、今や我が物顔で地上に繁殖している……っ! 必ずや駆逐し、我ら魔族の世界を取り戻さねばならんのだ!」


 ちなみに前世の俺は、かなりの数の魔族を葬った。

 彼らが絶滅寸前状態なのは、俺のせいと言っても過言ではない。

 ごめんね。


 とはいえ、昔から魔族はこんな感じで人間に対する強烈な敵対心を持っていたので、人間もまた魔族によって大勢殺されていた。

 残念ながら人と魔族は相容れない存在であり、どちらかが滅ぼされるのは有史以来の必然だった。


 ズウウウンッ!!


 そんなやり取りをしていると、地響きが聞こえてきた。

 見ると、マウンテンベアの一体が地面にひっくり返っている。


 どうやらファナとバダクたちの共闘チームが倒したようだ。

 一方、もう一体と戦っているアンジェとマリシアたちは苦戦している。


「攻撃が全然通らないんだけどっ!」

「加勢する」

「っ! あんた……っ!」


 体毛の下に隠された硬い岩のような皮膚を前に、まるでダメージを与えられていなかったアンジェを余所に、ファナが風を纏った斬撃を叩き込む。


「グルアアアアッ!?」

「こ、攻撃が通った!? あたしのは、まるで効いてなかったのに……っ!」

「ん。通る」


 バダクもまたパーティメンバーたちと共に加勢に走りながら、マリシアたちに向かって叫んだ。


「彼女の攻撃だけは確実にダメージを与えられる! 僕らは彼女のサポートに徹するんだ!」

「了解だ! 悔しいが、アタシの攻撃も全然効かねぇ! ここはファナ嬢に頼るしかねぇ!」

「ん、任せて」


 俺が魔力回路を治療したことで、風魔法と身体強化魔法を同時に維持しながら戦えているようだ。

 当然ながら攻撃力も増し、それであの改造マウンテンベアにも攻撃が通るようになったのである。


「下等生物どもめっ! 大人しく踏み潰されて死んでいればいいものをっ!」


 魔族が額に青筋を立てながら、その手に魔力を凝縮させていく。


「死ねっ!」


 そしてマウンテンベアと戦っているファナ目がけて、魔力の塊を放った。


 ドオオオオオンッ!


 しかしそれは、ファナに届く前に爆散してしまった。

 俺が剣モードのリントヴルムで斬り捨てたためだ。


「おにーさんの相手は僕だよ?」

「っ……人間の赤子が、私の魔力弾を斬っただと……?」


 驚いているようだが、大した威力じゃなかったぞ。


「んー、見たところ、おにーさん、魔族は魔族でも、かなり下級みたいだね。あ、そっか! だから自分の力だけじゃ難しいと思って、頑張ってこんなところでせっせと魔物を改造してたんだ!」

「き、貴様ぁ……っ! この私を、侮辱するかぁぁぁぁぁっ!」


 図星を突かれたのか、魔族がブチ切れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る