第51話 よかったら僕にも教えてよ
「そいつの? ちょっと、誤魔化さないでよ!」
「誤魔化してない。本当」
「こんな赤子に何ができるってのよ?」
アンジェがジロリと俺を睨みつけてくる。
赤子を睨むとか、どんな教育を受けてきたのだろう。
あとさっきから一応、地味に活躍しているんだが。
「うん、本当だよ。アンジェお姉ちゃんも、僕ならファナお姉ちゃんみたいに強くしてあげられるよ?」
その代わり裸体を拝ませてもらうことになるけどな……ふふふ……。
「べ、別に、あんたの力なんか借りなくても、あたしは十分強いんだからっ!」
なかなか強情な子だ。
「しかし、さっきのミノタウロスといい、見知った魔物が、今までに見たことのない能力を持っているね……。他にもこんな厄介な魔物がいるのだろうか?」
「Cランク以下の冒険者じゃ、到底、対処できそうにないな……」
「調査のために一体くらい死体を持ち帰りたいところだが」
「あ、それなら僕に任せてよ」
俺は亜空間の中にミノタウロスやマッドビーを放り込んでいった。
まだまだスペースがあるし、全部入れておこう。
ミノタウロスはオークに並んでその肉に需要があるし、マッドビーもその体内から珍味として知られる特殊な蜜を得ることができるからな。
きっと高値で売れることだろう。
「……全部消えちまった」
「相変わらずどうなってやがんだ……」
ズン、ズン、ズン……。
「ん? 何だ、この地響きは?」
「き、気を付けろ! また何かヤバいのが近づいてきている気がするぞ!」
シーフのヘミルアが叫んだ直後、大きな岩の影からそれが姿を現した。
全長十メートルはあろうかという、巨大な熊の魔物だ。
うちの狼かーちゃんよりも大きいかもしれない。
「なっ……マウンテンベアだと!?」
「こんな場所に……っ!?」
その巨体ゆえに、マウンテンベアと呼ばれている熊の魔物は一体だけではなかった。
一体の後ろから、さらにもう一体、同じようなサイズの個体が続く。
「「グルアアアアアアアアアッ!!」」
轟く咆哮に怯みつつも、冒険者たちは即座に臨戦態勢へと入る。
「狼狽えるな! マウンテンベアは危険度B+の強敵だが、こっちには十分な戦力がある!」
「ああ! 落ち着いて戦えば、どうにかなる相手だ!」
そう互いを鼓舞し合う彼らを、予想外の光景が襲った。
「「シャアアアアアアアッ!!」」
マウンテンベアのお尻。
本来なら丸いフワフワの尾が付いているはずのそこから、どういうわけか鋭い牙を剥く巨大な蛇が生えていたのである。
「ブラックサーペント!?」
「ゆ、融合してやがるのか……っ?」
「それだけじゃなさそうだね」
「なに?」
「ほら、見てよ」
俺は魔法で石の塊を作り出すと、それをマウンテンベア目がけて射出した。
身体に直撃するも、カンッ、と硬い音が鳴って、あっさりと弾かれてしまう。
「あの体毛の下、硬い岩のようになってる。まるでロックアントだね」
ロックアントは、硬い岩のような外骨格を持つ蟻の魔物だ。
「つーことは、あれはマウンテンベアとブラックサーペント、それにロックアントのキメラってことか……?」
「そんなキメラ、聞いたことねぇぞ!?」
「マジかよ……ただのマウンテンベアでさえ、強敵だってのに……もはや危険度Aレベルじゃ……」
戦意を失いかけているところへ、巨大熊が襲いかかってきた。
バダクが叫ぶ。
「だ、大丈夫だ! こっちには彼がいる! オークキングを倒した彼が……」
「あ、ここはみんなに任せるよ」
「へ?」
俺はこの場を彼らに任せて離脱する。
というのも、この異常事態の原因と思われる存在を発見したからだ。
◇ ◇ ◇
彼は忌々しそうに、魔物と戦う人間の集団を見下ろしていた。
「ああ、腹立たしい……この私が作り出した魔物たちが、人間のような下等生物どもに殺されるとは……」
そう。
彼こそが、この異変を引き起こしている張本人だった。
「くくく、だが、人間が滅びるのもそう遠い話ではない。私が生み出した最高傑作たちが、今に地上に蔓延る奴らを蹂躙し、駆逐することだろう……」
理想の未来を思い描き、嗜虐的に嗤う。
だがそんな彼はまだ気づいていなかった。
魔法で姿を隠蔽した彼のすぐ背後に、最大の脅威が迫っていることに。
「ねぇねぇ、楽しそうだね? 何か良いことでもあったの? よかったら僕にも教えてよ」
「っ!?」
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