第50話 あんなに強かったのか

 透明化したミノタウロスの群れへ、俺は水魔法と土魔法を融合させることで、頭から泥水を浴びせかけてやった。


 するとさっきまでは見えなかったはずの巨躯が、泥の汚れによって暗闇の中に浮かび上がってくる。


「なるほど、これは上手い方法だ……」

「はっ、さすがじゃねぇか」

「ん。レウスは頭がいい」


 バダク、マリシア、ファナに褒められる中、泥によって透明化を解かれたミノタウロスたちは狼狽えている。


「こうなったら、こっちのものよ!」

「僕たちも行くぞ!」

「「「おおっ!」」」


 アンジェが突っ込んでいき、それに他の冒険者たちが続いた。


「はあああああっ!」

「ブモオオオッ!?」


 先ほどの意趣返しか、気合が入りまくったアンジェの奮闘もあって、ミノタウロスの群れを全滅させるのにそれほど時間はかからなかった。


「しかし何だったんだ、このミノタウロスは……」

「聞いていた通り、やはり異常なことが起こっているようだな」

「ふん、少しは面白くなってきたじゃないの」


 反応は人それぞれだが、何らかの異変が発生していることは間違いないと、全員の意見が一致する。

 だがそれについて落ち着いて考察する暇もなく、すぐに新手が襲いかかってくる。


 ブウウウウウウンッ!!


 耳障りな羽音が聞こえてきたかと思うと、天井付近に複数の影が見えた。


「っ! また魔物か!」

「あれは……危険度B-のマッドビーだ!」


 蜂の魔物、マッドビー。

 体長五十センチほどの大きさで、高い機動力と尾の毒針が厄介な魔物である。


「あたしに任せなさい! ファイアウェイブ!」

「私も行きます! サンダーストーム!」


 魔法使いのチルダとミルルが、範囲型の魔法を放った。

 回避能力が高いマッドビー相手には、魔法による範囲攻撃が効果的なのだ。


 だが、


「えっ!?」

「効いていない!?」


 炎と雷の中を、何事もなかったかのように突き抜けてくる蜂の群れ。

 予想外の事態に、冒険者たちが狼狽える。


「たぶん、結界魔法だよ」

「結界魔法? レウス、どういうこと?」

「一瞬だけど、魔法を喰らう前に結界を展開するのが見えたんだ」


 それによって魔法をやり過ごしたのだろう。


「マッドビーが結界魔法だと!?」

「そんな話、聞いたことねぇぞ! ミノタウロスといい、一体どうなってやがるんだ!?」

「と、とにかく今は戦いに集中だ! 迎え撃つぞ!」


 押し寄せてくるマッドビーの群れ。

 素早い動きから繰り出してくる毒針に注意しながら、冒険者たちはどうにか対処しようとするが、


「もらった」


 ガキィィィィンッ!


「っ!?」


 ファナが繰り出した風を纏う斬撃が、マッドビーの身体を切り裂く前に、結界によって弾かれてしまう。


「くそっ! なかなか当たらない上に、捉えたと思ったら結界で防御しやがる! こいつら、めちゃくちゃ厄介だぞ!?」

「がっ!? くっ……毒針が……」

「げ、解毒魔法だっ! アンチポイズン!」


 みんな苦戦しているな。


 ブウウウン――――――パァンッ!


 俺はこっちに向かってきたマッドビーに向けて、凝縮した魔力を撃ち出してみた。

 すると結界を展開させる前に、その頭部を魔力弾が貫く。


「……なるほど。みんな、結界を展開される前に攻撃を当てちゃえばいいよ!」

「いや、そんなことができたら苦労しねぇよ!」

「普通の攻撃速度じゃ無理だ!」

「あれ? そう?」


 見ると、アンジェの攻撃もマッドビーの結界に阻まれていた。


「何なのよ、こいつらはっ!」


 彼女の拳も蹴りも、マッドビーの防御に僅かに遅れてしまっている。


 だがそんな中で一人、ファナが躍動していた。

 風魔法の後押しを受け、さらには身体強化も併用しているのだろう、俺と訓練場でやり合ったときとは段違いの速度で巨大蜂との距離を詰めると、通り抜けざまに一閃。


「~~~~ッ!?」


 結界を張る暇もなく、マッドビーは真っ二つに両断された。


 さらに彼女の勢いは止まらず、他の冒険者たちの苦戦を余所に、次々とマッドビーを仕留めていく。


「は、速い……」

「……ファナ嬢って、あんなに強かったのか?」

「なっ……」


 アンジェがなかなか仕留められずにいたマッドビーも、ファナはあっさり倒してしまった。

 当然ながらそれをアンジェが受け入れられるはずもなく、


「ど、どういうことよっ!? あんた、いつの間にそんなに強くなってんの……っ!?」

「ん。レウスのお陰」


 アンジェよ、君もファナみたいに強くなりたければ、俺の施術を受けてみたらどうだい?

 優しくしてあげるからねぇ……ぐふふふ……。

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