第45話 決着をつけてやるわ

「ちょうど良いところにいたわ。あんた、今からあたしと勝負なさい」

「勝負?」


 赤髪の美少女からいきなり挑まれて、ファナが首を傾げる。


「ガチな戦いよ。あんたとあたし、どっちが強いのか、決着をつけてやるわ」

「……何で?」

「何でって。決まってるでしょうが。あたしがあんたよりも強いことを証明したいのよ」


 物凄く自分勝手な理由だった。


 まぁそれも頷けなくはない。

 恐らくこの少女、女ばかりの戦闘民族として知られるアマゾネスだ。


 強さこそを至上とするアマゾネスは、自分よりも強い者の存在を許せない。

 同年代で、しかも同じ女性ということもあって、ファナに対して強烈な対抗心を持っているのだろう。


『アマゾネスですか。見ただけでよく分かりますね、マスター。普通の人間の女性と大差ないように見えますが』


 ふっふっふっ、甘いぜ、リントヴルム。

 アマゾネスの特徴は、何もその高い戦闘能力と強烈な敵愾心だけじゃない。


 彼女たちは優秀な子種を手に入れ、強い赤子を出産することによって、より洗練させた戦闘民族への進化を続けているのだ。

 当然ながら、強い男を誘惑する能力にも長けている。


 ゆえに彼女たちにはそのための強力な武器を持っていた。


 そう。

 おっぱいだ!


 服がパンパンになるほどの強烈な自己主張をしている彼女の双丘は、まさしく彼女がアマゾネスであることの証左だろう。

 それに尻もデカい。


 あと、アマゾネスは髪の色が赤いことが多いんだよな。


『むしろそれが最も簡単な判別法では?』


 そんなことを考えていると、アマゾネス少女が俺に気づいて、


「っ……あんた、何よ、その赤子は……? まさか子供を産んだっていうの……?」

「違う。拾った」

「拾った……?」


 俺はアンジェという名のこの少女に向かって腕を伸ばした。


「あうあうあー」


 抱っこしてアピールである。

 この可愛らしい赤子を前にすれば、どんな女性も必ず抱き上げたくなるはずだ。


 くくく、その乳、たっぷり堪能させてもらうぜ……。


「はっ、何にしても、赤子を訓練場にまで連れてくるとか。あんたにそんな母性があったなんてね。もっと強さに貪欲な人間だとばかり思ってたわ」


 アンジェは鼻を鳴らし、吐き捨てるように言った。


「どうやら戦って証明するまでもなさそうね。腑抜けたあんたに勝ったところで、何の意味も無いもの」

「……?」

「せいぜいその場で足踏みしてるがいいわ」


 さっきまであれほど敵対心を剥き出しにしていたというのに、興味を失ってしまったのか、それだけ言い残してアンジェは訓練場を出て行ってしまった。


「……何しに来た?」


 ファナが呟く中、俺は愕然としていた。


 あ、赤子パワーが通じないなんて!?


 当てが外れてしまい、項垂れる俺。

 しかし俺はこれで諦めるような男ではない。


 必ずやあの素晴らしい胸を味わってみせると、固く誓うのだった。


『……マスター、もはやその変態性を隠すつもりもないようですね?』







「レウス。どうやったら、もっと強くなれる?」


 その日の夜、唐突にファナが訊いてきた。

 あまり感情が表に出ない彼女だが、いつになく真剣な表情だ。


「ファナお姉ちゃんも、あのアンジェお姉ちゃんに負けたくないの?」

「? それはどうでもいい。レウスに負けたから」


 どうやらアンジェのことはあまり眼中にないらしい。


「うーん、そうだねぇ。ファナお姉ちゃんが今より強くなる方法は色々あるけど……一番手っ取り早いのはやっぱりアレかなぁ」

「アレ?」

「身体強化魔法だよ」

「……身体強化魔法?」


 ファナは風魔法も使えるようだが、メインは二本の剣による二刀流だ。

 そして剣士にとって、剣の技術も確かに大事だが、そもそもの身体能力が何よりも重要だった。


「風魔法が使えるんだから、ちょっと頑張ればすぐに使えるようになると思うよ。そして常に身体強化状態を維持できるようになれば、今より格段に強くなれる」

「でも、私は魔力量が乏しい。たとえ魔法で身体強化できたとしても、すぐに魔力が枯渇すると思う。風魔法だけで精いっぱい」

「今のままだとね」

「……?」

「お姉ちゃん、魔力回路の治療とか受けたことないでしょ?」

「それは何?」

「……もしかして聞いたこともない感じ?」


 おかしいな。

 前世だとそれなりに流行っていたのだが。

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