第44話 本当に仲が悪いよな
「さーて、どんどん行くよ、お姉ちゃん。ファイアボール×30」
俺の背中に現れる大量の炎塊。
一撃一撃が、硬い岩に穴を開けてしまうくらいの威力がある。
「……もはやファイアボールじゃない」
ファナが額に汗を浮かべながら言うが、俺はお構いなしに二発目を放った。
それも躱されたが、すかさず三発目、四発目を撃ち出す。
次第に回避が間に合わなくなったファナは、剣で受け止めようとしたが、
ドォンッ!
「~~~~っ!」
衝撃と共に吹き飛ばされてしまう。
「……凄い威力」
「でしょ。どうする、お姉ちゃん?」
「ん。それなら私も本気出す」
そう言って、ファナが使ったのは風魔法だった。
二本の剣を風が覆う。
そして俺が放ったファイアボールへ、思い切りその剣を叩きつける。
ブワァッ!!
風によって攪拌され、炎があっさりと霧散させられてしまう。
さらにファナは自分の両脚にも風を纏わせると、先ほどまでとは比較にもならない速度でこっちに迫ってきた。
残っていたファイアボールを連射したものの、すべて風を纏う剣で打ち払われてしまった。
このまま接近戦となると分が悪い。
ズゴオオオンッ!!
「~~~~っ!?」
真っ直ぐ突っ込んできたファナだったが、俺の目の前で見えない壁に阻まれたかのように、突如として勢いよく跳ね飛ばされた。
「……結界?」
「そうだよ」
半径一メートルほどの結界を張ったのである。
「そんなこともできるの? 色々とおかしい」
顔を顰めつつも、結界を破るつもりなのか、再び思い切り突進してきた。
「ウィンドブレイク」
猛烈な風が渦巻く二本の剣を、交差させるようにして結界にぶつけてくる。
恐らくは彼女の必殺技だったのだろう。
その凄まじい威力に、結界からミシミシという音が鳴り響いてきた。
「……無理だった」
だが俺の結界を破壊するには至らず、ファナは力なく呟く。
さらに魔力を使い切ってしまったのか、身体を覆っていた風がゆっくりと萎んでいった。
「お姉ちゃん、もう終わり?」
「ん。レウスの実力はよく分かった。わたしより遥かに格上。たぶん、今のも全然本気を出してない。完敗」
なかなか潔い敗北宣言だった。
ただ、赤子に負けたのは悔しかったらしく、
「初めて年下に負けた。もっと頑張らないと」
まぁ俺は身体こそ赤子だが、実際には前世の膨大な魔法知識や戦闘経験の蓄積があるからな。
年下と言っていいのかは分からない。
もちろんそれは内緒だが。
「マジか、あの赤子、ファナ嬢に勝っちまったぞ……」
「すげぇ戦いだったんだが……」
「ワイバーンやキングオークを倒したってのも、嘘じゃなかったんだな……」
見学していた冒険者たちが呆然とする中、俺はふわりと身体を浮かせて、互いの健闘を讃えるようにファナの胸に抱き着く。
はぁはぁ……汗を掻いた後の胸も良いものだ……。
『健闘を讃えているようには見えませんが?』
そうしてファナに抱えられながら訓練場を出ようとしたときだった。
「っ!」
入れ違うようにして入ってきたその少女が、ファナに気づいて一瞬で身構えた。
真っ赤な髪の少女だ。
ファナと同じくらいの年齢だろうか、まだ幼さの残る顔立ちをしてはいるが、非常に気の強そうな印象を受ける。
「アンジェ?」
「……ファナ」
アンジェと呼ばれた赤髪少女が、ぎろりとファナを睨みつける。
その様子を見て、訓練場にいた冒険者たちがヒソヒソと言葉を交わした。
「あの二人、本当に仲が悪いよな」
「いや、アンジェ嬢が一方的にファナ嬢に喧嘩を売ってるような感じらしいぞ」
「確か同い年で、同じ試験で、しかも同じCランク冒険者になったんだったか。だがそこでどうやらファナ嬢の方が活躍して、それ以来、アンジェ嬢が強烈にライバル視してるとか」
「それからお互い昇格して、今は共にBランク冒険者。どっちが先にAランクになれるか、勝負してるっていう噂もある」
……どうやら二人はライバル関係にあるらしい。
だがそんなことよりも大事なのは。
俺は赤髪少女の身体を見ながら、思わず心の中で叫んでしまった。
めちゃくちゃ乳がでかいっ!!
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