第43話 魔法も使っていくね

「イリアから聞いた。冒険者になったどころか、すでに凄い活躍ぶりだって」


 しばらく遠征に行っていたファナが帰ってきた。

 冒険者ギルドに寄ったらしく、そこでイリアから不在の間の俺の話を聞いたらしい。


「ゴブリンロードにワイバーン、それにオークキングを倒して、しかも多額の懸賞金がかけられた犯罪者を捕まえたとか。……私より頑張ってる」

「たまたまだよ、たまたま」

「謙遜してる」


 ちなみにこの期間、俺はお言葉に甘えて彼女の家を使わせてもらっていた。


 もちろんちゃんと綺麗に使っていたぞ。

 むしろ浄化魔法を使ったりして掃除しておいたので、前よりも綺麗になっているほどだ。


 クローゼットの中身もしっかりと掃除してある。

 ファナの下着がどこに収納されているかもばっちり把握済みだ。


『マスター、亜空間の中にこっそり仕舞っていたの、わたくしが見ていなかったとでも?』


 何の話だろうか。

 まったく身に覚えがない。


「そういえばファナお姉ちゃんはどこに行ってたの?」

「私は依頼で辺境の村に行ってた。近くに出た危険度Bのキルタイガーを倒した」

「一人で?」

「ん」


 彼女はパーティを誰とも組まず、ソロで冒険者をやっているらしい。

 今のところまだBランクのようだが、Aランクに昇格するのも時間の問題だとイリアが言っていた。


「お姉ちゃん、強いんだね」

「レウスとどっちが強いかな?」

「うーん、試してみる?」

「ん、面白そう。ぜひ戦ってみたい」


 何となく提案してみただけなのだが、思いのほか強く乗ってきた。

 赤子相手に力試しを望むとか、ちょっと普通の感覚じゃないけどな。


 そんなわけで、俺とファナは冒険者ギルドへとやってきた。

 ギルドの地下には訓練場があって、そこで試合をすることにしたのだ。


「おい、ファナ嬢だぞ」

「それに噂の赤子ルーキーもいるぜ」

「あの二人、何をする気だ? ま、まさか、今から戦うつもりかよっ!?」


 そこでトレーニングをしていた冒険者たちが、訓練場の中央で向かい合う俺たちを見て、騒めき始めた。


「こ、こいつは見ものだぞ!」

「ファナ嬢は言わずと知れた、今もっともAランクに近いと言われている最強のBランク冒険者だ! 対するあの赤子も、いきなりBランク冒険者になって、そこから信じられない速度でとんでもない実績を積み上げている!」

「どっちが強いんだろうな?」

「さ、さすがにファナ嬢なんじゃねぇか……?」


 そんな外野の声を余所に、ファナは腰に提げていた二本の剣を抜く。

 一方、俺はリントヴルムを剣モードに変え、構えた。


「……レウスは剣士?」

「剣も使えるよ?」

「そう。でも重たそう」

「大丈夫。ほら」


 俺は自分より何倍も大きなリントヴルムをブンブンと振ってみせた。


「ん。大丈夫そう」

「じゃあ、行くよー」


 俺は地面を蹴って、一足飛びにファナとの距離を詰める。

 そうして大上段からリントヴルムを振り下ろした。


 ガキィィィィィンッ!!


 激しい金属音。

 ファナが俺の斬撃を二本の剣で受け止めたのだ。


「重たい。どこにそんな力が?」

「さあね」


 俺はリントヴルムを振り回して、次々と斬撃を繰り出す。

 ファナはそれを二本の剣で軽々と受け流していった。


 と、次の瞬間、僅かな隙を突いて、一転して彼女の方から攻勢に出てきた。

 躍るような動きながら苛烈な斬撃の嵐を、俺はどうにかリントヴルムを盾にしながら防ぐ。


「す、すげぇ戦いだ!」

「てか、あの赤子、ファナ嬢のあの猛攻に耐えてやがるぞ!?」

「だが明らかに防戦だぞ! さすがにファナ嬢の方が上なのかっ?」


 うーん、いくら魔法で身体強化しているとはいえ、元が脆弱な赤子の身体じゃ、やはり剣だけでやり合うのは厳しいな。


「お姉ちゃん、魔法も使っていくね。ファイアボール」


 俺の背後に出現する、小さな炎の塊。

 超初級の攻撃魔法だが、俺が使えばただのファイアボールではない。


「発射」

「っ!?」


 射出された炎の塊を、ファナは咄嗟の判断で横に飛ぶことで回避した。

 躱された炎塊はそのまま訓練場の壁まで飛んでいって、


 ズドンッ!!


 壁に穴を開けた。


「……は? な、何だ、今のは?」

「ファイアボール? いや、そんな威力じゃねぇぞ……だいたいこの訓練場、そう簡単に壊れないよう、特殊加工された金属を使ってるはず……」

「その壁に穴を開けただと……? てか、そもそもあの赤子、剣だけじゃなくて魔法も使えるのかよっ!?」


 炎を目いっぱい凝縮させたファイアボールだからな。

 まともに喰らったらあの壁みたいに身体に穴が開くだろう。


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