第46話 もう少し常識を身に着けてください

 魔力回路というのは、体内を循環している魔力が流れている道のことだ。

 血が通っている血管のようなものだと思ってもらえればいい。


 その魔力回路が整っていれば整っているほど、魔力を効率よく運用することができる。

 だがほとんどの人が、この魔力回路が歪だったり、ねじくれていたりした状態で生まれてきてしまう。


 そこでこの魔力回路を整え、魔力効率を上げるための治療法が開発された。

 というか、俺が開発したのだが。


 前世の頃だと、かなり流行っていたんだけどな。

 今の時代では一般的なものではなくなってしまったのかもしれない。


「その治療をすれば、魔力が少なくても身体強化が長く維持できる?」

「うん、そのはずだよ」

「どんな治療?」

「じゃあ、今からやってみようか」

「レウスもできるの?」

「できるよ」


 創始者だからな。


「じゃあ、今から治療をするから、魔力の流れが分かりやすいように服を脱いで」

「分かった」


 何の疑いもなく普通に服を脱ぎ出すファナ。

 いや、本当に服を着ていない方が治療しやすいのだから仕方がない。


「下着は?」

「それも脱いだ方がいいね」

「ん」


 ふふふ、治療のためだからねぇ……。


 まぁすでに何度も一緒にお風呂に入っているので、今さら躊躇うこともないだろう。

 一糸まとわぬ姿になったファナを、俺はベッドの上へと誘導した。


 寝転がったファナの全身を流れる魔力を、俺は目に意識を集中させながら『診る』。

 ……決して裸を見ているわけではない。


 ふむふむ、なるほど。

 やはり魔力回路があちこち捻じ曲がっているな。


 これでは魔力効率が悪くなって、早く消耗してしまうだろう。

 すべて修復できれば、恐らく魔力効率は今の倍、いや、三倍くらいにはなるはずだ。


「じゃあ治療を始めるね」


 俺はそう言って、指先に魔力を集中させながら、彼女の引き締まった肌に触れた。


「んっ……」


 ファナの口から声が漏れる。


「大丈夫。痛くないからね」


 捻じれた魔力回路を修復するのに、痛みは伴わない。

 むしろ快感を覚える患者の方が多くて、彼女もそのタイプのようだ。


 ビクビクっと身体を震わせる彼女を余所に、俺は治療を続けていく。


「あっ……んんっ……」


 今の俺は身体が小さいので、治療箇所まで自分の身体を動かしていく必要があった。

 胸の辺りに乗っかったり、下腹部の辺りを通り抜けたりしているのはそのためだ。


『飛行魔法を使えばいいのでは?』

『治療に集中しないといけないからダメだ。ぐへへ……』

『今も治療に集中しているようには見えませんが?』


 それから治療は一時間にも及んだ。

 魔力回路はとても繊細なものなので、丁寧に治療を施す必要があるからな。


「はぁはぁ……」


 終わったときには、ファナは汗をびっしょり掻き、息を荒くしていた。

 顔は紅潮し、目は少しとろんとしている。


 まるでアレの後のようだ。


「……終わった?」

「うん。終わったよ。今日のところは」

「今日のところは?」

「治療は上手くいったけど、念のためしばらくは経過観察していかないとね。だからしばらくしたらまた診せてもらいたいんだ」

「分かった」


 経過観察は大事だからな、うん。

 万一のことがあったら大変だし。


『……ただの口実では?』








 この街に来てから一か月ほどが経った。

 今の俺はだいたい生後三か月といったところだろう。


「ちょっと身体も大きくなった気がするな」


 赤子の成長は早い。

 魔法で身体強化をしなくても、俺は普通に走り回ったりできるようになっていた。


「そろそろ街中を歩いていても驚かれないかもな」

『いいえ、マスター。普通の赤子はまだハイハイもできませんよ』

「マジか」

『いい加減、もう少し常識を身に着けてください』


 そんなある日、冒険者ギルドにやってきた俺は、受付嬢のイリアからあるお願いをされていた。


「お金目当ての養子はお断りだよ?」

「今日はそれじゃないのよ」


 しばらく目がお金になったイリアから養子になってほしいと懇願されていたが、どうやら今回は別件らしい。

 プライベートな話ではなく、仕事のことのようだ。


「この街から近いところにあるダンジョンで、ちょっと看過できないような異変が多発してて。それで上級冒険者たちを集めた調査隊を出す予定なのよ。それにレウスくんもぜひ参加してくれたら嬉しいなって」

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