第40話 こんな子、うちにいましたか

 バダクたちBランク冒険者へ、子供たちが次々と襲いかかってきた。


「くそっ! 本当に子供か、こいつら!?」

「数が多いだけじゃねぇ! ガキとは思えねぇ動きしやがるぞ!」


 熟練の冒険者たち五人にかかれば、本来なら子供など何人いようが相手ではない。

 しかし一体この歳でどれだけの訓練を積んできたのか、ここの年長者たちに至っては、駆け出し冒険者にも勝るような戦いを見せてくるのである。


 幸い個々の戦力の高さに対して、あまり連携は得意ではない様子だった。

 だが子供相手ということもあって、バダクたちもなかなか全力では攻撃ができない。


 加えて、各々が扱っている武器がバラバラなのだ。

 お陰で対処に手間取ってしまう。


 それでもさすがはBランク冒険者たちである。

 徐々に戦況は優勢へと変わっていった。


「大人を舐めるなっ!」

「「「っ!」」」


 バダクが振るった大剣が、子供たちをまとめて吹き飛ばす。


「あんたたちがその気なら、こっちだって容赦しないわよ!」

「「「~~~~っ!?」」」


 チルダが放った雷撃魔法が、子供たちを麻痺状態にしてしまう。


「ふん、大人がいつまでも手加減してあげると思ったら大間違いよ」


 そうチルダが鼻を鳴らした、そのときだった。

 ブレット院長の身体から伸びてきた謎の糸が、彼女の足に絡みついたかと思うと、凄まじい力で彼女を宙吊りにしてしまう。


「ちょっ、何よ、これは……っ!? ……がぁっ!?」


 そのまま勢いよく地面へと叩きつけられ、苦悶の叫びをあげてしまう。


「チルダ!? 今の糸はっ……」

「ふふふ、余所見している場合ではありませんよ?」

「っ!?」


 別の糸がバダクに襲いかかっていた。

 咄嗟に飛び下がった彼の鎧が、すっぱりと綺麗に切り裂かれてしまう。


「これはっ!?」

「奴の身体から何本もの糸が……っ!」

「た、多分、魔力で操っているのよ……っ!」


 鞭のように巻き付いたかと思えば、刃物のような鋭い切れ味も示した謎の糸が、ブレット院長の周辺で何本も蠢いている。

 バダクが何かに気づいたように叫ぶ。


「き、聞いたことがあるぞ……っ! 各国から指名手配され、冒険者ギルドもその足跡を追い続けている、人間ながら危険度A指定されている最悪最強の大量殺人鬼……っ! そいつが確か、ただの糸を魔力によって自在に操作する、謎の技を使うらしい……っ! まさか、この男が……っ!?」

「ほう、よくご存じですねぇ。間違いなくわたくしがそれでしょう」

「こんなところに身を潜めてやがったのか……っ!」

「けど、何で孤児院なんかを……っ!?」


 投げかけられた問いに、ブレット院長は糸を操りながらあっさりと答えた。


「わたくしもそろそろ歳でしてねぇ。せっかく生涯をかけて身に付けた殺人術を、どうにか後世に伝えられないかと思いまして。それで孤児たちを集めて、指導することにしたのですよ」

「思っていた以上に狂った理由なんだけど……っ!」

「だが、それなら何で連れ去りなんて真似までしてやがる……っ!?」

「……やはり世の中というのはなかなか残酷なものでして。わたくしの要求レベルに応えられるような才能を持つ子はほとんどいなくてですねぇ……。気が付けば、孤児以外の子供にまで手を出すようになってしまいまして」

「ま、待て! 貴様、その要求に応えられなかったという子供たちは一体どうした!?」

「ははは、心配は要りませんよ。そんな子たちであっても、ちゃんと重要な役目はあるのです。才能のある子どもたちのために、その身を捧げるというねぇ」

「「「まさかっ……」」」


 脳裏に浮かんだ悍ましい想像に、バダクたちは顔を顰める。

 一方、ブレット院長は、己の行為に何の疑いもないといった様子で、告げた。


「殺人術の相手になってもらったのですよ。やはり実際にやってみるというのは、何よりも大切なことですからね。それに最初は体格が近い相手の方がやり易いでしょう?」

「なんてことを……っ!」


 そして恐らくここにいる子供たちは、殺人のための技術を仕込まれただけでなく、幼い頃からこの男のいかれた思考を植え付けられ、洗脳されてしまっているのだろう。


「こんな奴をのさばらせておくわけにはいかない! ここで必ず仕留めるぞ!」

「「「おうっ!」」」


 Bランク冒険者の矜持にかけて、こんな危険人物を取り逃がすわけにはいかないと、バダクたちは気合いを入れ直す。


 しかし次の瞬間、子供たちの身体から一斉に糸が蠢き出した。


「「「子供たちまで!?」」」


 まさか子供が同様の技を使えるとは思わず、狼狽えるバダクたち。


「ふははははっ! 果たして皆さんに攻略できますかねぇ! わたくしが人生を費やして作り上げた最強の殺人術っ……とりわけその奥義たるこの『魔操糸』を……っ!」


 ブレット院長が哄笑を響かせた、そのときである。

 彼の足元に近づいてくる小さな影があった。


「あうあー」

「む? こらこら、勝手に部屋から出てきてはいけませんよ。まだあなたたち赤子組は、お昼寝している時間ですからね。……あれ? こんな子、うちにいましたか……?」

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