第35話 前科がありますからね
「は、ははは……あたしはきっと夢を見ているんだわ……そうに違いない……はははは……」
「ちょ、どうされたんですか、チルダさん!?」
受付嬢イリアが、虚ろな目で笑うチルダの姿に驚いている。
「一体何が……」
そこで彼女の視線が俺に向いた。
「……レウスくん、今度は何をしでかしたのよ?」
なぜか疑われている。
『当然かと。マスターには前科がありますからね』
『前科て。俺が何かしたか?』
『マスターはもう少し空気が読めるようになるべきかと』
だが今回は俺のせいというより、チルダの目の前で迂闊に強力なブレスを放ったリントヴルムのせいだろう。
あれにビビッて失禁してから、こんな感じになってしまったのである。
『わたくしは見通しの甘かったマスターを助けるために放ったのですが?』
『はい、すいません』
リントヴルムに謝ってから、俺はにっこり赤子スマイルでイリアに報告した。
「心当たりがあるとしたら、オークキングを見つけて倒したくらいかなー?」
「オークキングがいたの!? しかも倒したって!? 見つけたら戻ってくるように言ったじゃないの!」
「まぁ倒せるかなって」
「オークキングは危険度A-の魔物なのよ!? たった二人で挑むなんて……」
「それがね、イリア……あたしは何もしてないのよ……ははは……ただ空の上でお漏らししてただけ……ははは……」
「チルダさん……? お、お漏らしって……?」
その後、オークキングやオークジェネラルなどの死体を見せたりして、改めて驚かれた。
さすがに俺の亜空間も容量オーバーで、倒したオークの大部分は持ち帰れなかったのが心残りだが、仕方がない。
解体場も完全にキャパが超えているようだし、往復して持ってきても対応できないだろう。
残念ながらチルダが休養に入ってしまったので、俺はしばらくの間、一人でオークの森を探索することになってしまった。
チルダ以外のメンバーを同行させる案も出てきたが、彼女の二の舞になりかねないとのことで、ギルド長が直々に却下した。
まぁ男と一緒に行っても楽しくないし、単独の方がありがたい。
それからオークの森の探索を続けたが、あれ以来、オークキングやオークジェネラルと遭遇することはなかった。
どうやら繁殖も収まってきているようで、大きく増加する兆候も見られず、そのうち普段の水準へと戻っていくことだろう。
結局、なぜ大量発生してしまったのかは分からなかったけどな。
なお、完全にメンタルブレイクしていたチルダだが、数日後にはすっかり元気になって、冒険者として復帰することとなった。
「チルダさん、大丈夫なんですか?」
「ええ、もう心配ないわ」
「それはよかったです。……あのときは完全に別人のようで、本当にびっくりしました」
「しばらくは夜になると凄いうなされようだったみたいで、メンバーたちからは『もうダメかと思った』なんて言われちゃったけど……」
「そこから僅か数日でよくなるなんて、さすがBランク冒険者ですね」
「そうかもしれないわね! むしろなんだか以前より自信と意欲が漲ってる感じだし!」
……俺が夜中にこっそり彼女の家に忍び込んでは、心を安定化させるために精神操作の魔法を施し続けてあげたお陰だろう。
『ちゃんと自分のせいという自覚があったのですね。成長されましたね、マスター』
馬鹿にしてる?
「というわけで、ひとまず依頼は完了ね。ただ今後しばらくは、定期的に様子を見に行ってもらえると助かるわ。もちろんその分の報酬は出すから」
「ワイバーンもあれ以来、一度も見かけてないよ」
「そっちの依頼も完了にしておくわ。恐らく一体だけたまたま北の山脈から降りて来ちゃったのね」
イリアが「よいしょ」という掛け声とともに、窓口の上に大きな袋を置いた。
「ええと……正直とんでもない額になってるんだけど、これが諸々の報酬よ。ワイバーンの素材を納品してくれた分も入っているわ」
中には大量の金貨が入っている。
これでしばらくはお金に困ることはなさそうだ。
「これだけの額だし、普通は預けておいた方がいいんだけど……」
「亜空間に保存しておくから大丈夫だよ」
「……そうよね」
亜空間の中に放り込んでおいた。
またマジックポーションを大量に買い込むとしよう。
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