第34話 戦力として期待してないよ

 それからさらに俺たちは索敵魔法を展開しつつ森の上空を飛び、規模の大きなオークの群れを見つけたら殲滅する、ということを繰り返し続けた。


「……あたし何もやってないんだけど?」

「その代わり良い胸を堪のいやなんでもないよお姉ちゃん?」


 チルダによれば、明らかにオークは例年と比べて過剰な大量発生をしているようだった。

 すでにハイオークは五体ほど倒している。


「この様子だと、それ以上の上位種も生まれている可能性があるわね」


 ハイオークはせいぜい危険度B程度だが、その上位種となるオークジェネラルは危険度B+に相当するそうだ。

 さらにオークキングは危険度A-の魔物で、討伐するには熟練の冒険者パーティが何組も必要になるという。


 万一オークキングが発生していたら、すぐに引き返して報告するように言われていた。


「さすがにオークキングは勘弁してほしいけど……」


 チルダがそんな呟きを零したとき、俺の索敵魔法に明らかに今までとはレベルの違う反応があった。


「あの辺に大きな反応があるね。しかも周辺にはハイオーク以上のが幾つか。もしかしたらオークキングが率いる群れかも」

「え?」

「ちょっと行ってみるね」

「いやいやいや、軽く散歩にでも行くように言わないでくれる!?」


 慌て出すチルダを余所に、俺は森の中へと降下し、反応があった地点へ。

 するとそこで見たのは、ゆうに百体近い規模のオークの群れだった。


「ハイオークより大きいのが何体かいるね」

「ちょっ、それってオークジェネラルじゃない!?」

「あ、オークキングっぽいのもいる」

「~~~~~~~~~~っ!?」


 チルダが俺の身体を揺すって必死に訴えてきた。


「す、すぐにギルドに戻って報告しないと! ねぇ、何でまだ降下を続けてるのよ!? ま、まさか……」

「だって、このまま倒した方が早くない?」

「何言ってんのよ!? オークキングが率いる群れに、たった二人で挑むなんて自殺行為よ!?」

「ううん、お姉ちゃんは戦力として期待してないよ?」


 チルダはリントヴルムに任せて、俺は一人でオークの群れの元へと飛び降りた。


「ブヒィ?」

「ブヒブヒ?」

「ブヒヒヒ~?」


 いきなり空から降ってきた人間の赤子に、オークたちが「なんだなんだ」と騒めく。

 俺はそんな彼らに近づいていくと、例のごとく魔力の塊を猛スピードで放出し、オークの額を撃ち抜いた。


 どさり、とさっきまで元気にブヒブヒ鼻を鳴らしていたオークが、地面にいきなり倒れ飲む。

 謎の現象に他のオークたちが驚く中、俺は次々と同様の方法でオークを仕留めていく。


「ブホオオオオオオオオオッ!!」

「む、オークジェネラルか」


 ハイオークより一回り以上も巨大なオークが躍りかかってきた。

 同じように魔力の塊を額にぶつけてやったが、


 バンッ!


「~~~~ッ!? ブホオオオッ!!」


 硬い頭蓋と皮膚に阻まれ、一瞬動きを止めるだけに終わってしまう。


「っと! だったら……」


 オークジェネラルが振るう拳を躱しながら、俺はさらに多くの魔力を費やし、凝縮したその塊を形成させていった。

 ドォンッ、と大きな爆音と共にそれがオークジェネラルの額に直撃する。


「ァア、ア……」


 頭の上半分が丸ごと吹き飛んで、巨体が倒伏する。

 さらに二体目三体目と、オークジェネラルを片づけたところで、


「ブヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!」


 怒り狂ったオークキングが突っ込んできた。

 今の俺が小さ過ぎるのもあるが、もはやちょっとした山のような大きさで、足で地面を踏むだけで凄まじい地面が振動している。


 一方の俺は、マナポーションを亜空間から取り出しつつ、


「……マズいな。オークジェネラルだけで魔力が枯渇した。これを飲んでる暇もないし……」

「ちょっと、早く逃げなさい……っ!」


 チルダの叫び声が頭上から響いてきた、次の瞬間。

 声と同じ方向から光線が降ってきて、それがオークキングの頭を消し飛ばした。


 地響きと共に勢いよく巨体が地面に崩れ落ちる。


『ご無事ですか、マスター』

「助かった、リンリン。思ってたより魔力が足りなかった」


 リントヴルムの放った強烈な光のブレス。

 さらにオークキングがやられたのを目の当たりにし、残ったオークたちにとっては、怒りより恐怖の方が勝ったのだろう。

 我先にと散り散りに逃げて行ってしまった。


 ポタポタポタポタ……。


「ん?」


 リントヴルムから、何やら水のようなものが降ってきているんだが?

 いや、これは……。


「あ、あ、あ……」

『どうやら今のブレスに驚いて、失禁してしまったようです。……どうしてくれるのですか、マスター? 汚らしい液体がわたくしの身体にかかっているのですが?』

「あちゃ~」


 俺は思わず天を仰ぎながら、言った。


「さっき僕と一緒におしっこしておけばよかったね、お姉ちゃん」

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