第33話 これ飲ませてよ
「可愛い見た目して、とんでもないわね、ほんと……」
最初こそ初めての飛行に戸惑っていたチルダだけれど、少し慣れてきたようで、段々と落ち着いてきた。
「ていうか、本当に赤子なの?」
「そうだよー」
「赤子は普通、自分が赤子だっていう認識もないものだけどね……」
呆れたように息を吐くチルダ。
そんな彼女の胸に抱かれながら、やがてオークの森の上空へとやってきた。
俺は索敵魔法を展開する。
前世だったら、この森全体を覆う規模の展開くらい簡単なことだったが、今の赤子の魔力量では難しい。
そのため森全体を網羅できるよう、飛行魔法でぐるりと回ってみるしかなかった。
「索敵魔法まで使えるっていうの……? いえ、そもそも魔法の同時発動が、高難度の技なのに……」
「あ、お姉ちゃん、あの辺にオークの群れがいるね。ハイオークもいそう」
「いきなりハイオーク……。今まで何度もこの森に来てるけど、ハイオークになんてそうそう出会わなかったわ。やっぱり今年は明らかに異常な繁殖の仕方してるみたい……って、なんか急に高度下がってない!?」
「うん。数を減らせそうなら減らしておいてって言われてるから」
「ちょっ、本気っ!? こっちは二人だけよ!?」
喚くチルダを無視して、森の中へ。
すると予想通り、そこにはハイオークが率いる群れが。
「大丈夫。僕一人で十分だから。このまま殲滅しちゃうよ」
俺は飛行したまま群れへと突っ込んでいく。
のんびりしていたオークたちがこちらに気づいたが、そのときにはすでに最初の数体が俺の魔力弾で頭部に風穴を開けられていた。
ドドドドドドドドドドドッ!!
次々と額を撃ち抜き、巨体が地面に崩れ落ちていく。
その中には群れを統率するハイオークも交っていた。
突然の乱入者とボスの死に、群れはあっという間にパニックに陥る。
混乱している隙を突いて、さらに残るオークを片づけていった。
「うん、これで全部かな」
「な、な、な……」
群れを掃討し終わって、チルダが唖然としている。
「群れをたった一人で……あの解体場で出した大量のオークも、本当に君が一人でやってたのね……。だけど、まさかこんなに簡単に……」
さらに俺はオークの死体を亜空間へと放り込んでいった。
「しかも平然と時空魔法を……。それにどう考えても、あたしたちが持ってるアイテムボックスより容量多い……」
「あ、お姉ちゃん、これ飲ませてよ」
逆にその亜空間から取り出したのは、魔力を回復させるマナポーションだ。
かなり魔力量が増えてきたといっても、赤子なのでまだまだ早く枯渇してしまう。
周囲からマナドレインで魔力を吸収するのも時間がかかるため、手っ取り早く回復できるよう、事前にマナポーションを大量に買い込んでおいたのである。
結構高価なポーションなのだが、オーク討伐の報酬で稼ぐことができたからな。
これで亜空間の容量ももう少し大きくできるぞ。
哺乳瓶を飲ませてもらうように、チルダからマナポーションを飲ませてもらう。
「んぐんぐんぐ、ぷはーっ! マズい、もう一杯!」
「……飲みっぷりが完全におじさんのそれなんだけど?」
顔を顰めながらも二本目へ。
高価だった割に、味が悪いし、回復量もあまりよくない。
俺が作ったマナポーションの方がよっぽど性能が良いな。
まぁ材料を揃えるのも面倒だし、作成には魔力が必要だし、今は市販品に頼るしかない。
ただ、赤子の小さな身体に、二本のマナポーションはちょっと量が多過ぎたらしく、
「んー、おしっこ」
「えっ?」
「ここでするから持ち上げて」
「まぁ、赤子だから別にいいけど……」
チルダに腰を持ってもらうと、パンツをズラしてそのまま木の根元に向かって放尿する。
確かにおっさんだったらド変態だよな。
じょぼじょぼじょぼ。
「ふぅ~、すっきりした」
「それはよかったわ……」
……放尿しているところを女の子に見られて、ちょっと興奮したのは内緒だ。
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